乾くるみ『カラット探偵事務所の事件簿1』

 新聞記者をしていたものの体調を崩した俺は、高校時代の同級生の古谷に誘われ古谷が立ち上げる探偵事務所で唯一の調査員として働くことになった。広告も出さない、謎解き専門という古谷の方針では引き受ける依頼などやってくるはずもなかったが・・・


 乾さんの新シリーズ短編集。タイトルに『1』とついているだけに続けてほしいものですが・・・
「卵消失事件」
 夫が買ってきた烏骨鶏の卵。だが、卵パックの中に卵はなく、開けた形跡もない・・・howよりもwhyに重きが置かれた作品。そこに至る理由と経緯があまりにバカバカしい。
「三本の矢」
 武家屋敷とも呼ばれる名家。その壁に弓道の矢が打ち込まれた。どうやら敷地内からのようだが・・・タイトルどおり。三本の矢といえば有名な故事がありますが、それとの比較も楽しいかも。
「兎の暗号」
 祖父が父、叔父、叔母にそれぞれ残した三首の歌。それは暗号になっているようで・・・ストレートな暗号もの。ただし、暗号そのものはなかなかストレートにはいかず、ヒネリが効いています。
「別荘写真事件」
 失踪した父の安否を知らせる匿名の手紙と写真。それはどこで撮られたものなのか・・・結末への伏線がうまく散りばめられたおもしろい作品。写真を想像するとユーモラスですね。
「怪文書事件」
 団地の住人に送られた怪文書。ありがちな不倫の告発だったが、怪文書は3回続いて・・・理に適った発想と、真相とのギャップが大きく可笑しい。井上が声高に主張する気持ちが、あとになるとわかる気がします。
「三つの時計」
 仲間だった早苗の父は、新郎の手土産だったケーキの製造時刻では約束に間に合わないはずだったと言う・・・「怪文書事件」からつながる日常の謎。一種類ではなく二種類の使用し、推理により厚みを持たせているあたりがうまいですね。ただし、それも最後の仕掛けに食われて、印象に残りにくいのが残念。


 全体にオーソドックスな感覚の短編集。暗号や時刻などパズルのような要素が多く盛り込まれながらも、読みやすい作品がそろっています。月刊文庫に掲載されていただけあって最後にはカラッと解決し、後味もよい作品ばかりです。
 ですが、最後の仕掛けは乾さんの作品としてははっきり言って期待はずれ。「乾くるみ」ブランドでこの仕掛けでは驚けません。このネタだったら、せめてもうひとつふたつヒネリがほしいところでは?
 『1』とあるからには『2』以降も期待したくなるのですが、はたして2冊目の事件簿は世に出されるのでしょうか。読むとなれば、本作とは違ったイメージで読み始めることになるのでしょう。


収録作:「卵消失事件」「三本の矢」「兎の暗号」「別荘写真事件」「怪文書事件」「三つの時計」

2008年11月26日読了 【6点】にほんブログ村 本ブログへ
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