ネレ・ノイハウス『穢れた風』


穢れた風 (創元推理文庫)

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書評

 風力発電施設の建設会社で、夜警の男が死体となって発見された。社長室のデスクにはハムスターの死骸があり、社長のタイセンは神経質な反応を見せた。この会社が新たに建設を目指す発電用の風車は住民の反対運動に抵抗されており、やがて反対運動の関係者が遺体で発見される事態に。しかも第一発見者は被害者の友人でオリヴァーの父。オリヴァーとピア、二人の刑事は捜査にあたるが、人間関係と思惑の渦に巻き込まれていく・・・・・・


 ドイツではすでに8作が刊行されているという、オリヴァー&ピアシリーズの5作目、2011年に発表された『Wer Wind sät. Ullstein, Berlin』の邦訳。このシリーズは初読なのだけれど、シリーズ名に違和感を覚えるほどピアの活躍が際立っている。というか、オリヴァーが期待はずれなのか、空回りなのか、とにかく迷走してしまった。いくら心身ともに参っている状態とはいえ、ちょっと迷走しすぎだ。おそらく過去作では活躍していたのではないかと思うのだが、これは実際にさかのぼって確認してみないとわからない。ひとつ、過去作を遡る楽しみが増えた。
 一方、取り残された感もあるピアは様々な思いを抱えながら、オリヴァーに代わって捜査を指揮する。時に苦悩し、時に勇敢に。彼女にもプライベートの悩みはあるけれど、それは切り分けて。ピアがとった行動こそ、リーダーの果たすべき役割じゃないか。次こそ、名誉挽回してほしいなあ。

 

 物語は最初から最後まで、嘘と隠し事あるいは秘密の世界だ。誰が誰に嘘をつき、何を隠し、誰と秘密を共有しているのか。それが事件を複雑にし、先を見えにくく、そしておもしろくしている。人々の欲望とエゴを満たすために、嘘、隠し事、秘密といったものが使われ、結果として予期せぬ形で犠牲になる人もいる。実のところ、まわりの余分な部分を削いでいけばさほど複雑な事件ではないだろう。事件関係者も、捜査側も、そして読者も嘘や隠し事に振り回されるのだ。
 事件の背景として風力発電地球温暖化といった環境問題がある。海外、特に欧州ではこれらは日本以上に身近な問題として浸透しているのだろう。似たようなケースは日本でもあるのかもしれないが、そっくりそのまま日本を舞台にしたら、少し違和感があるように思われた。

 

 ともあれ、しっかり次作へも引きがあった。オリヴァーの復活? に期待しつつ、前作まで読んでみようと思う。

2017年12月16日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ