太田忠司『甘栗と戦車とシロノワール』

 美術部の活動中、「顔を貸せ」と声をかけられた甘栗晃。相手は「名古屋最凶の中学生」と呼ばれた元不良の徳永だった。彼は、甘栗が探偵として活動したことを知り、栄の近くで見かけたものの、路地に入って突然消えてしまった恩師を探してほしいと依頼してきたのだ・・・


 甘栗晃、再び探偵するの巻。
 父親をなくした孤独がそうさせるのか、年齢以上に大人びている甘栗。「私」という一人称が効いているのかな。今回もハードボイルドな人捜しです。
 先生がいなくなったという事件の真相は決して複雑なものではありません。ただし、そこにたどり着くまでが楽しく描かれています。とにかく事件に挑むふたりの少年が真っ直ぐで熱いのです。「名古屋最凶の中学生」と呼ばれた戦車のわりに思いのほか純情な徳永と、クールそうに見えて熱さを内に秘める「テンシン」甘栗。案外いい組み合わせなのかもしれません。


 もちろん、楽しさの影には厳しさ、ほろ苦さがあり、その現実をしっかり突きつける甘栗の強さを垣間見ることもできます。
 ただ、甘栗にひとつ弱点があるとすれば、それは女性の気持ちに対して鈍感なところでしょうか。すぐそばに三ヶ日さんがいるのに、少しも気づかないなんて。三ヶ日さんに翌日の予定を聞かれても、「デート」と断るのは厳しいのではなく酷いのだと思いますっ。


 高校生が相対するにはちょっと早すぎる内容だった気もしますが、現実をしっかりと直視できるふたりならきっと大丈夫。甘栗晃が心ならずもまた探偵として活躍することを祈るばかりです。


関連作:『甘栗と金貨とエルム

2010年5月15日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
甘栗と戦車とシロノワール
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