恩田陸『訪問者』
人里離れた山奥の洋館、弁護士の井上は、急死した映画監督峠昌彦の遺言を実行するために、身分と目的を偽ってここを訪れた。迎えたのは年老いた朝霞兄弟。彼らの姉千沙子が昌彦を育てたのだ。嘘が見抜かれた井上が公表した遺言は、兄弟の中から名乗り出た実父に著作権を相続すること・・・
序盤に提示されるシチュエーションからして、なにやらあやしく魅力的。山奥の洋館、秘密を抱えた兄弟、一族の著名人の不透明な死などなど。それだけでも読者をひきつけるのですが、何せこの物語を書いているのは恩田さん。これでもかとばかりに読者をぐいぐいひきつけます。
単純に昌彦の実父探しをするだけでなく、そこに「訪問者」という要素を加えることで登場人物たちを惑わし、物語をより厚いものにしています。もちろん訪問者だけでなく、朝霞兄弟をはじめとする登場人物の誰もがあやしく、それだけでも十分に楽しめる状況が作られています。
懸念されるのは恩田作品にありがちな「広げた大風呂敷が畳まれない」展開なのですが、この作品に関してはそんな心配はまったく不要。しっかりとラストまでにまとめてくれます。
ただし、その点にこだわったからということもないのでしょうが、全体的にやや小さくまとまった印象があります。それに、この着地の仕方はきれいではありますが、インパクトが小さく、ちょっと不満が残ります。何だか期待していたような結末を豪快にすかされたような感覚です。
それでも、恩田さんがミステリでこれだけ楽しませてくれれば満足。またこんな作品を書いてほしいものです。
訪問者 | |
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