初野晴『退出ゲーム』
高校から吹奏楽部に入りフルートを始めたチカ。憧れの顧問草壁目当ての入部ではあったものの、廃部の危機とあれば部員集めをしなければならない。草壁との接点なのだから。だが、チカの目の前には難問が立ちはだかる。チカは幼なじみで変わり者のハルタとともに奔走するのだった・・・
良い評判は聞いていましたが、まさに青春本格ミステリの傑作短編集です。
●「結晶泥棒」
文化祭中止を要求する脅迫に合わせて劇薬硫酸銅の結晶が盗まれた。文化祭の中止は文化部にとって存続の危機・・・脅迫と盗難を巧みに組み合わせた作品。ただし、扱った内容からどこかで見たことがあるように感じられるのが残念。
●「クロスキューブ」
亡くなった少年が遺したパズル。それは六面すべてが白いルービックキューブだった・・・白いルービックキューブが持つメッセージがあまりに純粋で、余計に心を打ちます。ハルタが仕掛けた演出が、ミステリであることを思い出させてくれました。
●「退出ゲーム」
部員引き抜きのために対決する吹奏楽部と演劇部。「退出ゲーム」と呼ばれる即興劇で・・・とにかく吹奏楽部と演劇部との駆け引きが読む者を楽しませてくれます。ひとりの観客として見たいほど。このゲーム、理詰めでいかなくてはならないあたり、本格ミステリと近いのでは。世界の反転とともに感動を与えてくれます。ゲームの結果が参加するものの問題を解決するあたりがいいですね。
●「エレファンツ・ブレス」
「オモイデマクラ」で夢を見るために指定された色は、「エレファンツ・ブレス」という謎の色・・・社会派的な要素を強くした作品。それだけに4編中最も重い作品に思えます。こういう作品が加えられることで、作品集全体がキッと引き締まる感じがします。
チカ、ハルタ、草壁先生といった中心人物のみならず、各編で絡む様々な登場人物までもキャラが立っていて、ユーモアもなかなかあり、読みやすい仕上がりです。
また推理も軽い蘊蓄的な要素があるものの、それが鼻に付くことが全くありません。蘊蓄の内容にもよるのでしょうが、やはり出し方・見せ方がうまいのでしょう。
軽い日常の謎かと思いきや、その実なかなかヘビーなテーマを扱った作品集。これは予想外でした。思わず、「ちょっと読んでみて」と言いたくなります。オススメ。学年が上がるのが楽しみです。
収録作:「結晶泥棒」「クロスキューブ」「退出ゲーム」「エレファンツ・ブレス」
【感想拝見】- 粋な提案さま(2009.03.06追加)
- ミステリ読書録さま(2009.10.02追加)
- 乱雑な本棚さま(2010.01.18追加)
- ホシノ図書館(本と映画の部屋)さま(2010.02.04追加)
退出ゲーム | |
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