松田志乃ぶ『嘘つきは姫君のはじまり ひみつの乳姉妹』

 母の血筋は一流なのに、父親が誰かわからず落ちぶれ、貧乏になった姫君・馨子。乳姉妹の宮子と暮らしていたが、ある日馨子の父親は超名門貴族だったことがわかり、ふたりは義兄の兼通のもとへ。だが、兼通の前で馨子と名乗ったのは、身代わりになった宮子だった・・・


 平安朝を舞台としたライト・ミステリ。
 『なんて素敵にジャパネスク』のような作品を期待して手に取ったわけですが、なかなかに楽しませてもらいました。突拍子もない発想をする馨子は瑠璃姫のよう。こういう破天荒なキャラクターは読んでいておもしろく、結構気に入っています。逆に振り回される宮子は小萩のポジションでしょうか。とにかく控えめというか、常識的で馨子に忠実なキャラクターです。それだけに、余計に馨子の破天荒ぶりが引き立てられます。
 そんな宮子をヒロインに据えた平安ミステリ。キャラクターに頼り切るわけではなく、キッチリと作りこまれたトリックが予想以上によかったです。また、その裏にある人間関係も、この時代性をうまく生かしていました。雅やかなところがいいですね。


 ただ、やはりそういった雰囲気を出す文章は氷室冴子さんの方が数段上でしょうか。比較するのが間違っていると思われるかもしれませんが、あちらはいろいろなところで貴族の時代の雰囲気が出ていましたから。もちろんこの作品も頑張っていましたが、氷室さんがうますぎるかな。もしかすると最初の貧乏貴族の設定が雰囲気を壊しているのかも。
 厳しい目で見ても、ここで打ち切りになるのは勘弁してほしいと思わせてくれるおもしろい作品でした。ぜひ、続きが読みたいです。

2008年7月13日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
嘘つきは姫君のはじまり―平安ロマンティック・ミステリー (コバルト文庫 (ま10-2))
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