有川浩『図書館危機』
思いもよらぬことから王子様の正体を知ってしまい、郁は困惑。一方、図書館では毬江に対する痴漢行為が発覚し、小牧らの怒りは頂点に。彼らは、柴崎と郁の二人を囮とした捜査を開始し、痴漢退治に臨んだ・・・
「図書館」シリーズ第三弾。今回も短編集のような構成です。
困惑する郁が痴漢退治を通して成長する「王子様、卒業」、士長昇進の実技試験・読み聞かせで手塚が苦しむ「昇任試験、来たる」、検閲による逆差別を考える「ねじれたコトバ」、茨城県展の警備に向かった郁の前に母が現れる「里帰り、勃発−茨城県展警備−」、そして茨城県展での攻防を描く「図書館は誰がために−稲嶺、勇退−」の5章。
シリーズの大きな流れとして郁の王子様捜しがありました。『内乱』のラストでその正体が発覚し、これを機会に二人の仲は一気に進展するのかと思ったのですが、思いのほか進まない。もっとベタベタ甘々になるのかと予想していただけに、ちょっと拍子抜けかも。いや、むしろこれくらいの方がいいかもしれませんが。
まあ、郁と堂上はほうっておいても進展するはずなので良いのですが、それだけに気になるのは手塚と柴崎でしょうか。エリートと情報屋の関係がどうなるのか楽しみです。
日常的に使っている言葉なのに検閲の対象になる、というのは結構ショックですね。ましてやその言葉が表す仕事に誇りを持っていれば尚更でしょう。実際、作中だけでなく「床屋」という言葉は現実に放送禁止用語とされるケースがあるようです。これは本当に驚きであり、悲しいことです。
また、茨城県展を巡る攻防はとても激しく、熾烈を極めるものでしたが、自由や大切なものを守ることがどれだけ大変なことなのか、教えてくれます。
館内での痴漢とか、女子寮でのいじめのようないやなこと、あるいは稲嶺司令の勇退のような悲しいことはあったけれど、身を呈して「自由」を守った玄田が回復することが救いでしょうか。
稲嶺司令が創設した図書隊は、その支柱であった創設者を失ってどうなっていくのか。そして物語はどんな結末を迎えるのか。期待と不安が入り混じっています。
【感想拝見】
- 怪鳥の【ちょ〜『鈍速』飛行日誌】さま(2008.05.01追加)
図書館危機 | |
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