北村薫『1950年のバックトス』
「小説新潮」誌に掲載された掌編を中心に23作集めた作品集。
ちょっと怖い話、くすっと笑わせてくれる話、心があたたかくなる話など23も作品があると様々なのですが、どれも北村印の判が打たれているかのようで、静かで淡々と語られる中に味わいや深みが感じられます。取り上げられたエピソードへの目のつけどころが北村さんらしいかもしれません。
ギャップがユーモラスでおもしろい「百合子姫・怪奇毒吐き女」やシンプルでかわいらしい「雪が降って来ました」なども印象に残りましたが、やはり読み応えがあったのは後半のちょっと長めな作品たちでした。
表題作である「1950年のバックトス」は孫の少年野球の試合を観に行った祖母の話。祖母が語りだしたのは思いもかけなかった過去の職業のこと。当時のことが目の前の出来事のようにいきいきと描かれています。想像できる結末でしたが、あたたかな気持ちにしてくれます。*1
また、最後の「ほたてステーキと鰻」は『ひとがた流し』の後日談。あの人たちはこうして生きているのだなと安心させてくれるます。思い入れのある登場人物たちと再会させてくれるというのはうれしいものです。
収録作:「百物語」「万華鏡」「雁の便り」「包丁」「真夜中のダッフルコート」「昔町」「恐怖映画」「洒落小町」「凱旋」「眼」「秋」「手を冷やす」「かるかや」「雪が降って来ました」「百合子姫・怪奇毒吐き女」「ふっくらと」「大きなチョコレート」「石段・大きな木の下で」「アモンチラードの指輪」「小正月」「1950年のバックトス」「林檎の香」「ほたてステーキと鰻」
関連作:『ひとがた流し』『七つの黒い夢』(「百物語」収録)
1950年のバックトス | |
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