津原泰水『ブラバン』

 赤字続きの酒場を経営している他片等は、高校生だった頃、吹奏楽部で弦バス(コントラバス)を弾くとともに、軽音楽部も掛け持ちしていた。それから四半世紀、彼の元にはバスクラの皆元の訃報と、1年先輩でトランペットの桜井の結婚話が届く。披露宴でのブラバンの再結成を持ちかけられた他片は様々な手段で当時のメンバーと連絡を取り、その想いは当時へと馳せて行く。


 他片による高校時代の回想と現在によって構成される青春小説。不惑を迎えた他片なのだけれど、なぜか現在のパートからも青春を感じました。それは桜井が「なにやってんの、この万年高校生たちは」と呆れたのとは異なり、四半世紀の間いい時も悪い時もそれなりに乗り越えてきた人たちが、時の流れを飛び越えて今一度楽器を手にしてみようではないかというワクワクするような気持ちに共感できたからではないかと思うのです。
 30名を超える大勢の登場人物なのですが、その中でも主要な人物はそれぞれに特徴があり、また別紙でも添付されている登場人物紹介がわかりやすく、読み進めるのに不便はありません。ただ、素人には楽器がわからないのが難点でしょうか。きっとブラバン経験者なら読みやすいのでしょうが。
 これだけ多くの人物が登場しても、過去はすべて他片の目を通していて散乱せずわかりやすいです。文化祭や夏合宿などのメンバーに共通するものや、柏木からの失敗チョコ、宮島の花火、ベースを買うシーンなど印象的なエピソードには事欠かきません。そして、こういったエピソードの裏にある熱さは、現在の高校生にはないのかもしれないと思ったりしました。


 全くの偶然なのですが、この本を読み終える直前に友人から電話があり、自分の結婚式に出席してもらうために、高校で同じ倶楽部だった同級生を探しているという話がありました。残念ながら僕にはまったく心当たりがないのでその旨を伝えたのですが、偶然の出来事に驚きました。
 至福の読書時間を与えてくれた傑作。一気読みの時間が確保できなかったことが悔やまれる作品です。

2007年1月21日読了 【10点】にほんブログ村 本ブログへ
ブラバン
ブラバン津原泰水
バジリコ 2006-09-20
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おすすめ平均 star
star残念ながら、
starブラバンに入っていなくても、同世代として楽しめました
star私には少し早かったのかも
stars同世代ですから
starsこの切なさは同世代の読者ならでは、かな。

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