太田忠司『甘栗と金貨とエルム』
探偵事務所を開いていた父を不慮の事故で亡くし、後片付けをしていた高校生の甘栗晃。ところが、父は死の直前に金貨1枚で少女・仁礼淑子の母親捜しを引き受けていた。金貨を見つけられなかったばかりに晃はしぶしぶ彼女の母親を捜し始めるが・・・
高校生探偵を主人公にした青春ハードボイルド風ミステリ。
「美枝子は鍵の中」という父親が残したメモだけを頼りにした人捜し。ご都合主義的な偶然はいくつか見られた気がするけれど、楽しく読んだ作品です。
『甘栗と金貨とエルム』という一見しただけではどんな内容なのかわからないタイトルなのですが、「エルム」は晃が仁礼=楡から連想して淑子につけた渾名のこと。
主に人捜しパートと、高校生パートとに分けられるのですが、前者での晃はかなり高校生らしくない。これは一人称に「私」を使っているためだけではないと思うのです。ただし、これが孤独になってしまった晃の心情を表現しているとすれば、十分に効果を発揮しているといえるでしょう。
又、扱っている事件が人捜しのため比較的ライトなイメージがするのですが、徐々に「父親の知らなかった一面」が見えてきたり、あるいは「大人の世界の裏側」みたいなものがあらわれてきたりと、甘く見ると痛い目に遭いそうです。
同級生の直哉や三ヶ日が出てくる高校生パートはちょっと分量が少なかったのが残念。きっとこれは続編で使うのだろう、と勝手に期待。きっと続編でもおいしそうな名古屋名物の話題は満載でしょう。ちなみに「イタリアンスパゲッティ」はこちら。
でも、つっこみたいところが1つ。いくらなんでも有力政治家の息子だったら、結婚相手の素性ぐらい事前に調査しているでしょ、きっと。
ゲスト的に登場する藤森涼子のシリーズもまた読み返してみたいと思います。
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