光原百合『時計を忘れて森へいこう』
今日は、ちょっと前に読了した光原百合さんの『時計を忘れて森へいこう (クイーンの13)』について。
八ヶ岳山麓の清海。高校の校外学習で森へ行き時計をなくした若杉翠は、探しに戻った森の中でシークの自然解説指導員(レンジャー)の深森護と出会う。自然を愛し、純粋な心を持つ彼は、物事の真実を見抜く目を持っていた。
心優しい善人たちの物語。短編と呼ぶにはちょっと長い3編で構成されています。
●第1話
同級生の恵利がおとなしい教師に殴られた。恵利は「アタシガ、コロシタ」とつぶやき、教師は「俺のいうことをきけ!」と。
●第2話
シークでの結婚式をひかえていた草平は、婚約者の加寿美を事故で失った。彼は、何かを隠しているようだったが・・・
●第3話
<ゆうゆう倶楽部>に参加し一緒に童話を作った弥生が拒食症で入院してしまった。何が彼女をそうさせたのか。
東京創元社の「クイーンの13」*1というシリーズとして出版されたのですが、そのわりにミステリとしての「謎」の魅力には乏しい作品で、それを期待するとがっかりするかも。ただ、この作品はそれを補って余りある優しさとあたたかさ、そして森の自然の美しさが満ち溢れています。
全編を通してテーマとして扱われているのは「生と死」。それは死んだ者と生きている者との関係であったり、あるいは死んでいるように生きている者のことであったり。かなり重いテーマのはずですが、それをオブラートに包んだかのようにさらっと流したかのような感じがします。それが物語を軽くしすぎている気がする反面、物語の世界を維持する技術なのかもしれません。
美しい世界の中での、美しいお話。ただ、登場人物が善人ぞろいなのは難点か。だって、悪あってこその善でしょう。悪意のかけらも見当たらないだけにちょっときれいにまとまりすぎていて、結果として非現実的な感じがしてしまいます。
時計を忘れて森へいこう (クイーンの13) | |
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*1:このシリーズ、いつになったら13作揃うのでしょう