米澤穂信『春期限定いちごタルト事件』

 米澤穂信さんの『春期限定いちごタルト事件』を読了。


 高校一年生の小鳩君と小山内さんは恋愛関係でもなければ依存関係でもない「互恵関係」なるものを維持し、常に「小市民」であることを目指している。それなのに、二人にはちょっとした謎が頻繁に現れ、解きたくもない謎を解かざるを得ない状況に陥ってしまう・・・


「羊の着ぐるみ」
 旧友である健吾から吉口さんの盗まれたポシェット探しに協力を頼まれた小鳩君。分担して校舎内を探すが・・・
「For your eyes only」
 楽しみにしていた「春期限定いちごタルト」を自転車ごと盗まれてしまった小山内さん。一方、小鳩君は美術部に残された2枚のそっくりな絵の謎に挑む。
「おいしいココアの作り方」
 健吾の家へ招かれた二人。健吾はちょっとした工夫でおいしいココアをごちそうしてくれた。ところが台所では健吾の姉が・・・
「はらふくるるわざ」
 中間考査のテスト中、教室の後ろでガラスが割れた音がしたために思い出しかけていた答えを忘れてしまった小佐内さん。犯人は誰、何のために? 知りたいのに「知りたい」と言えないのはまさに・・・
「狐狼の心」
 「春期限定いちごタルト」とともにサカガミに盗まれていた小佐内さんの自転車。自転車は見つかったが、小佐内さんはそれに満足せず・・・


 いわゆる「日常の謎」に属する連作短編集。前4編の謎は特に日常的で、そして小さく地味ですが、うまく処理してあります。それを補うのが小鳩君と小佐内さんのキャラクター。「小市民でありたい」という二人の願いは、4つの謎を解く中で「なぜ、小市民を目指すのか」という新たな謎を読者に向けて提示しています。この「なぜ、小市民を目指すのか」という謎ははっきりとして形では明らかにならないのですが、最終編「狐狼の心」ではここまでに繰り出されていた伏線が収束され、ちょっと大きな謎を解き明かすという展開です。よくあるパターンではありますが、これも連作短編集の醍醐味の1つでしょう。
 「小市民でありたい」という願いとはうらはらに、隠していた旧来の姿を出さざるを得ない状況に追い込まれていく二人。とくに一人称の語り手である小鳩君の心理的葛藤、そして健吾とのやり取りは非常に緊迫感がありおもしろかったです。
 結果として過去に関する謎が残されたということは、続編が期待できるということ、と決め付けて楽しみに待ちたいと思います。


収録作:「羊の着ぐるみ」「For your eyes only」「おいしいココアの作り方」「はらふくるるわざ」「狐狼の心」
関連作:『夏期限定トロピカルパフェ事件

2005年1月18日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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