北山猛邦『『クロック城』殺人事件』

 誰もが終末を覚悟した1999年9月、荒廃した世界には磁気嵐が吹き荒れ、その影響を受けた地球規模の異常が発生していた。探偵事務所を営む南深騎のもとにはひとりの女性が訪れた。彼女が暮らす「クロック城」に出現する「スキップマン」退治を依頼したいと言う・・・


 第24回メフィスト賞受賞作。
 「物理の北山」なんて、まるで高校教師か予備校講師のように呼ばれる北山さんのデビュー作です。
 その評判の物理トリックですが、なんとなく想像したものと大差なく、拍子抜けというか残念でした。図版の使い方を含めた見せ方の問題でしょうか。ただし、こういった物理トリックで勝負しようという心意気は、叙述トリックやメタな作品も多い昨今では非常に嬉しいものです。


 もっとも、この作品で驚かされるのはこのトリックではなく、そのあとに残された怒涛の展開です。ついに明らかになる事件の真相は奇想天外なものです。それにこの作品におけるファンタジ-のような世界は、この最後の展開のために設定されたといっても過言ではないでしょう。
 トリックや事件の真相と強く結びついた世界設定でしたが、多くの要素が投げ出されたまま終わってしまったのはもったいないですね。例えば、十一人委員会とSEEMの抗争、あるいはボーガンで消されるゲシュタルトの欠片。それとも、それらはほかの作品でふたたび生かされるのでしょうか。


 いわゆる館ものの本格ミステリとこの世界観との融合を受け入れられるか否かがこの作品のポイントでは。そういう意味では、読み手を試す本格ミステリではないでしょうか。僕にとっては、ぜひほかの作品も読んでみたいと思わせる本格ミステリでした。

2008年10月21日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
「クロック城」殺人事件 (講談社文庫 き 53-1)
「クロック城」殺人事件 (講談社文庫 き 53-1)北山猛邦
講談社 2007-10
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おすすめ平均 star
star適性が違うような
star粗製乱造
starデビュー作。だけど、秀作。
stars子供の背伸び
starsすばらしいの一言

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