二郎遊真『マネーロード』

 人間嫌いが災いしてホテルに引きこもってしまった男は「金の声を聞く男」と呼ばれ、株式で巨万の富を築いていた。しかし、彼の元に送られてきた1枚の旧千円札が彼を動かした。それは、捨て子だった彼がなくしてしまった唯一の宝物だったから・・・


 第39回メフィスト賞受賞作。大雑把に言えば、引きこもり男が自分の過去をたどることによって外界へ出て行く物語。そこに主人公ヒィの「他人の金に対する欲が幻覚で見える」という特殊な能力(あるいは症状)が微妙に味を加えます。お金に欲のある人物からはヒィの懐へと無数の腕が伸びるというような幻覚を見てしまうのです。
 しかし、この能力が実際にどれだけ生かされていたか考えると、微妙と言わざるを得ません。もっと効果的に使うことができた気もするし、なくてもよかった気もします。彼がホテルから出ない理由や、仕手戦で莫大な富を築いた根拠にするためだったのかもしれませんが、何かほかの方法で代替ができたのではないでしょうか。


 ただ、主人公のヒィとヒロインのカズキがなかなか魅力的に描かれています。ヒィは人間嫌いという設定でなかなか読み手をも寄せ付けないような部分を感じるのですが、彼が外へ外へと出て行くのにつれてどんどん引き込まれてしまいます。一方のヒロイン・カズキもヒィ同様ある種の問題を抱えた人物でありながら、常に明るく前向きに生きようとするあたり好感が持てます。もっとも、これはほかの登場人物たちに金の亡者のような人物が多いことが影響しているのかもしれません。
 シナリオライター出身ということで、ストーリー構成は手堅く感じます。ただ、手堅さ以上の目新しさは感じませんでした。次回作に期待。

2008年6月7日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
マネーロード
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