宮木あや子『花宵道中』

 吉原の小見世・山田屋の遊女・朝霧は、不器量ながらもあと少しで年季を終え、吉原を出て行くはずだった。だが、朝霧は出会ってしまった。自分の運命を変えてしまう若者・半次郎に。(「花宵道中」


 第5回女による女のためのR-18文学賞大賞、読者賞を受賞した表題作を含む連作集。訪れる男たちに身を捧げ続ける遊女たちの叶わぬ恋の儚さ、切なさが巧みに表現されています。
「花宵道中」
 朝霧と半次郎、出会ってしまった二人の間には一人の男がいた・・・あっさりと書かれた壮絶な結末に心揺さぶられます。
「薄羽蜉蝣」
 初見世を二ヵ月後に控えていた茜は「好いた男がいる」と三津に告げた・・・何度名を呼ぼうとも恋しい人へ思いは届かない、この切なさ。
「青花牡丹」
 母を亡くし父に捨てられた京都島原の遊女・霧里。弟の身を案じつつ江戸へ下るが・・・「花宵道中」の裏側にある物語。記される真相に驚愕するとともに、その執念に感服。
「十六夜時雨」
 惚れる弱さなんて捨てたつもりだった八津だが、新たにやってきた髪結い・三弥吉のことが気になりだして・・・恋の形は人それぞれだけれども、八津が選んだそれはあまりにも切なく、そして前向きでした。
「雪紐観音」
 看板女郎桂山の下で期待される緑。彼女は桂山以外と口がきけなかった・・・短いながらも遊女たちの生活と思いが巧みに表現された一篇。こういう恋もありですよね。


 各篇は所々でかさなり合っていて、同じ場面を表から、あるいは裏からと語られる箇所がいくつか見受けられます。こういった場面に出くわす度に、より吉原へ、山田屋の姉さんたちの中へぐっと引き寄せられていくような感覚がしました。構成の妙でしょうか。
 R-18という名のとおり、子供には読ませられない作品集。それは官能的な表現がされているからではなく、ここに記されているのが子供ではきっと理解できない大人の恋だから。傑作。


収録作:「花宵道中」「薄羽蜉蝣」「青花牡丹」「十六夜時雨」「雪紐観音」

2007年8月23日読了 【9点】にほんブログ村 本ブログへ
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花宵道中
花宵道中宮木あや子
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