北村薫『玻璃の天』

 北村さんの新作は、『街の灯』に続くシリーズ第2作です。昭和8年を舞台に、今回もベッキーさんが控えめに大活躍します。


「幻の橋」
 犬猿の仲の兄弟。何年もいがみ合っているが、そのきっかけはイマイチハッキリしない。しかも、孫どうしが惹かれあっているという・・・まさにロミオとジュリエット。死亡を伝える新聞記事となくなった浮世絵という数十年離れた2つの謎が、真相で結び付けられたことがなかなか印象深いです。
「想夫恋」
 英子の学友綾乃が失踪した。彼女は暗号の記された手紙を残しており、その送り主は英子が綾乃との間で使っていた別名になっていた・・・それなりの知識がないと解けない暗号。北村さんらしいと言えばらしいのかな。
「玻璃の天」
 建築家の乾原が建てたという末黒野邸のお披露目に招かれた英子。だが、ステンドグラスの天窓を破って一人の男が墜落してきた・・・トリック云々よりもベッキーさんの過去が明らかになることのインパクトが大きいですね。


 読み進めるにしたがって徐々に戦争という暗黒の時代へ向かって行くのがよくわかる3編。その象徴が段倉という男でしょう。この男の登場も退場も当時の時代背景と密接に結びついていて、この1冊を象徴する重要なキャラクターであることは間違いありません。それだけに、ベッキーさんとのやりとりなど快哉を叫びたくなりました。
 全体の印象として暗くなっていく時代背景であるとか、風俗だとか、そういったものが中心に書かれた印象が強い中で、ミステリもしっかり生きています。あの暗号はちょっと解けないですけど。「玻璃の天」などちょっとした館ものみたいですね。
 やっぱり、ホンの少しも無駄のないようなトリックとロジックだけのミステリよりも、物語性が高く全く関係ないようなことまでも含めて描いていくミステリの方が、北村さんには合っている気がします。まあ、今までの作品ほとんどがそういった作風だったと思いますが。
 このシリーズは3編×3作だとどこかで聞いた気がします(間違っているかも)。次回作はもう少し早く読みたいです。


収録作:「幻の橋」「想夫恋」「玻璃の天」
関連作:『街の灯

2007年6月15日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ

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おすすめ平均
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