古野まほろ『絶海ジェイル Kの悲劇'94』

 祖父・清康は生きている! その言葉の真偽を確かめるために八重洲家康は孤島へと渡った。だが、そこにあったものは脱出不可能に見える監獄。一望の下に監視できるこの監獄に閉じ込められた、戦時中に清康とともに投獄された4人の子孫と家康。家康は祖父の脱獄を再現できるのか・・・


 命懸けの脱獄ゲームです。はっきり書きますが、他のシリーズと比較すると非常に読みやすく、無駄なものが省かれたつくりです。もちろん、この人の場合それがいいとは言い切れないし、言うつもりもないのですが。
 無駄なものがないというのは、ルビとかのような過剰な装飾がないということ。そしてそれだけでなく、家康の日常生活の多くが脱出のためのヒントに繋がっていくという、伏線だらけの物語構造も差します。
 その物語もあちらこちらへやたら広がるのではなく、脱出方法の一点に集約されていて、テーマが明確な分、読者も目的地までたどり着きやすくなっています。


 もっとも、読者への挑戦状は今回も一回だけではありませんし、それもハウダニットにとどまりません。一筋縄ではいかない挑戦状をもってくるあたり、らしさといえばらしさかもしれません。まあ、なかなか厳しい挑戦状であることは間違いありません。
 どちらかといえば、かなり“普通の”新本格に寄った感じが強い本作。十分に楽しませてもらいました。


関連作:『群衆リドル Yの悲劇'93

2012年2月14日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
絶海ジェイル Kの悲劇’94

絶海ジェイル Kの悲劇’94

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