近藤史恵『ホテル・ピーベリー』

 不祥事によって教職を追われ、ハワイにやってきた木崎淳平。友人から勧められた「ホテル・ピーベリー」は、リピーター不可という変わった条件がつけられている。オーナー夫妻も滞在客もすべて日本人というこのホテル、客の一人蒲生がプールで事故死、さらには・・・

ホテル・ピーベリー

ホテル・ピーベリー

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 ハワイを舞台としたミステリ。でも、木崎の状況が状況だけに、ひと夏のなんとかというような明るい雰囲気ではありません。心の癒しとか安らぎとかを求め日本から抜け出した彼が、さらに心に深い闇を抱えてしますような物語です。トラベルミステリというのも、またちょっと違う気がします。
 「誰もが嘘をついている」と言われるこの状況、一見するととてもミステリとは思えなかった部分からしっかり伏線が張られていて、あとになってうんうんと納得するばかり。仕掛けに注目が行かないように視線を遮られている一方、あやしい雰囲気というか、読者の興味を引き付けるような部分はしっかり打ち出すというメリハリのついたつくりでした。いや、仕掛けそのものはさほど目新しくない印象なのですが、見せ方、組み合わせ方がうまいのでしょう。


 ただ、衝撃という意味では小さかったでしょうか。というのは、登場人物、特に主人公である木崎に感情移入がしにくいことが原因のような気がします。ある意味、自業自得で職を失い、それでいてあまり反省しているようにも見えない人物。彼に共感し、感情移入するというのはちょっと無理でした。それができていたら少し違った読み方になったかもしれません。


 『夏への扉』、一回ちゃんと読まなきゃなと思っているのですが、いまだに読んだことがありません。今度の夏にでも。

2012年1月19日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ