麻耶雄嵩『メルカトルかく語りき』

 一年前の転落事件。美袋のマンションでの刺殺体。教祖が住む孤島での出来事。学校で起きた不思議な殺人事件。そして信州にあるメルの別荘で。いたるところで起こる不思議な殺人事件に挑むのはわれらが銘探偵メルカトル鮎。彼が導き出す、意外な結論とは・・・


 なんとも人を食ったような、賛否両論ありそうな結末を揃えた短編集。もともと「答えのない絵本」ありきだったようです。
 どれも銘探偵メルカトル鮎のキャラクターを存分に活かされています。たとえば「九州旅行」。メルと美袋のやりとりがおもしろい一編ですが、ここでの美袋を追い詰めていくメルの手口やラストシーンなどは、メルのキャラクターがよく出た部分ではないでしょうか。掉尾を飾る「密室荘」でのメルの態度もまた然り。


 もちろん、この作品集に仕掛けられた趣向はしっかり決まっています。ミステリにおけるロジックとフーダニットの親和性の高さを逆手にとったような「答えのない絵本」の試みはおもしろいものでした。前記の「密室荘」でも、冒頭から推測こそされるものの、同じものがより極端にわかりやすい形で表現されています。これでいいのか、と思わないではないのですが、ひとつの企みとして考えれば、前提を破壊するようなおもしろいものです。


 ただし、これが読んでおもしろい、楽しめるものかと言えばちょっと違うようで、個人的な好みとしてはこの企みよりもオーソドックスなものの方がいいかなあと。これは評価基準をどこに置くのかという問題ですから、人それぞれだと思います。
 まあ、作風を考慮すれば、麻耶作品の読者にとってはこういった作品があっても全然おかしくないのかな、普通なのかな、という気もします。


収録作:「死人を起こす」「九州旅行」「収束」「答えのない絵本」「密室荘」
関連作:『翼ある闇』『夏と冬の奏鳴曲』『痾』『メルカトルと美袋のための殺人

2011年9月30日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
メルカトルかく語りき (講談社ノベルス)

メルカトルかく語りき (講談社ノベルス)

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