辻村深月『光待つ場所へ』
悔しさ、恥ずかしさ、いたたまれなさ。そんな誰もが味わう感情の動き。完膚なきまで打ちのめされたあのとき、自分の存在が否定されたようだったあのときがよみがえる・・・
『ロードムービー』に続くスピンオフ短編集。今回も思いもよらぬあの人との再会が待っています。
●「しあわせのこみち」
自分の絵には自信があった。だから、教授が撮りあげて評価してくれるのは当然自分だと思っていた。だが、それは田辺が撮った映像作品で・・・才能があることを自他ともに認めた者だからこそ感じられる悔しさ、劣等感、あるいは焦燥感。そういったものがとても強く伝わる作品。なんだか、読んでいるだけの自分までもが、そういった才能がある者になったような感覚です。
●「チハラトーコの物語」
他人を傷つけない嘘で飾られた千原冬子の人生。そんな嘘を繰り返す彼女は、因縁あるひとりの脚本家と出会った・・・まさに嘘で塗り固めた人生だったトーコですが、その中に隠された本当の姿というかプライドをしっかり見せてもらった、そんな感じです。
●「樹氷の街」
合唱コンクール目前。指揮者の天木にとっての課題は、一向に上達しないピアノ伴奏の倉田をどうするか、だった・・・辻村さんの作品にはちょっとイタイ感じの女性が登場することが多いのですが、今回の倉田梢は本当にイタイ。もうかわいそうなくらいに。だからこそ、人と人とのつながり、絆というものがどれだけ大切で必要なものなのか伝わってきました。
スピンオフ作品の楽しさは再会にあります。以前読んだあの作品のあの登場人物がちょっとだけ絡んでくるという楽しみ。思いもよらぬ過去だったり、成長した姿だったり、あるいはまさかと思う裏側だったり。もちろん、既に読んでいることを前提で。
『光待つ場所へ』も単独でも楽しめるでしょうが、やはり本当に楽しむのであればあらかじめ読んでおくことが必要です。どれと繋がっているか、どれを読んでおけばいいのかはお楽しみということで。まあ、人物相関図を見たら一目でわかりますけどね。
辻村さんの作品世界は繋がっているものが多く、楽しませるという意味では非常にファンにやさしい世界です。次の作品『ツナグ』も、またどんな繋がり方をしているのか、あるいは繋がっていないのか、楽しみにしています。
収録作:「しあわせのこみち」「チハラトーコの物語」「樹氷の街」
光待つ場所へ | ||
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