麻耶雄嵩『貴族探偵』
密室での殺人事件、殺し合った三人の被害者、ちょっと不思議で興味深い事件の場に貴族探偵は突然どこからともなく現れる。そして、推理などという〈雑事〉はすべて使用人に任せ、難事件を解決していくのだ・・・
『神様ゲーム』以来となる麻耶さんの五年ぶりの新刊は、足掛け10年かかった短編集。
●「ウィーンの森の物語」
密室で見つかった男の死体。一見自殺のようだったが、ある物証は明らかに他殺であることを示していた・・・反転させる手際の良さが目を惹きました。しょっぱなからきれいにまとめてくれました。
●「トリッチ・トラッチ・ポルカ」
強請りをはたらいていた女が殺害された。容疑者は高校教師の男。男は遺体の頭部を埋めている姿を見られていた・・・ちょっと読みにくさを感じながらも、この辺も麻耶雄嵩らしさかなあと納得。
●「こうもり」
高級旅館風媒荘に泊まりに来た絵美と紀子は作家の大杉道雄と堂島直樹に出会う。しかし、大杉の妹佐和子が殺され・・・これは思ってもみない形でした。まんまとと言うべきでしょうか。
●「加速度円舞曲」
突然落下してきた岩にぶつかり、車が故障してしまった美咲。岩は担当する作家の家から落下していた・・・ロジックの積み重ねが冴える作品。これでもかこれでもかとばかりに。
●「春の声」
皐月の従妹弥生は、家のために三人の婿候補からの選択を祖父から迫られていた。三人の候補が集う夜、その内の一人から電話が・・・これにはうーんと唸らされます。
麻耶作品の探偵と言えばやはり銘探偵・メルカトル鮎なのですが、貴族探偵にもまた同じような人物像を思い浮かべてしまいました。事件解決の方法は全く違うのに。
全体にロジックが前面に強く押し出された作品集。10年という時間の経過もあってか、後半の作品ほどレベルが上がっているようにも思えます。一般的には「こうもり」の受けが良さそうな気がしますが、それよりも「加速度円舞曲」や「春の声」の方が好きかな。
欲を言えば、貴族探偵である必要性をあまり感じられなかったのが残念です。とは言っても、御前様は直接推理なんてものはなさらないお方ですので。
収録作:「ウィーンの森の物語」「トリッチ・トラッチ・ポルカ」「こうもり」「加速度円舞曲」「春の声」
貴族探偵 | |
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