夏川草介『神様のカルテ』

 「24時間、365日対応」。これが本庄病院の理念。変人で通っている内科医・栗原一止はこの理念の下、時には数日眠らずに勤務する。夏目漱石を敬愛し、優しい細君を愛する青年医師は、「御嶽荘」の友人たちや病院のスタッフ、そして患者たちに囲まれて今日も診察に当たる・・・


 第10回小学館文庫小説賞受賞作。
 いわゆる病院のドキュメンタリー、例えば救急医療や末期医療の実態、医師の過酷な実態のような要素もありますが、中心になっているのは医師の理想像と一止を囲む人々との交流ではないでしょうか。


 古めかしい口調からしてちょっと変わり者の一止。でも、こんなお医者さんがいるならいいなあと思わされます。医者ですから積極的に掛かりたいとは思いませんが、掛かるなら彼がいいなと。なにしろ患者との接し方があたたかいのです。末期癌に侵され余命幾許もない安曇さんとの時間の過ごし方など、その際たるものでしょう。無論、一止の姿は理想であって、実際の医療現場ではこんなことできないのでしょうけれど。これでいいのかと真剣に悩むあたりも一止の魅力かもしれません。
 時には、医療現場の厳しい現実を突きつけられるような場面もあります。それも一止の漱石のような口調とユーモアがオブラートに包んでくれます。


 一止を支えるハル(榛名)もまたやさしくあたたかく、そしてキュートな女性でした。こういう夫婦関係は本当に理想でしょうね。仕事の関係上、会えない日が続くのは難点かも知れませんが。


 本庄病院での一止は、同期の砂山、良き理解者である大狸先生、古狐先生、信頼できる看護師の東西など、周囲の人物に恵まれています。また、おんぼろ下宿の「御嶽荘」には男爵や学士殿のような友人もいます。彼らとの関係もひとつの理想かもしれません。


 あたたかさとやさしさに満ち溢れた理想の一冊。いまさらですがオススメします。

2009年12月16日読了 【9点】にほんブログ村 本ブログへ
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神様のカルテ
神様のカルテ夏川草介
小学館 2009-08-27
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おすすめ平均 star
star古めかしい文体があったかい。
star結構好きかも!
star現実の医療現場から
stars秋の夜長に心温まるストーリー
stars普段本を読まない人や、中高生なら★5かも

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