初野晴『初恋ソムリエ』

 廃部の危機にある吹奏楽部。チカは変わり者の幼なじみハルタや、憧れの顧問草壁とともに部員集めに奔走し、幾人かの部員を集めることに成功した。目指すは吹奏楽部の甲子園「普門館」。だが、ふたりの周りには新たな部員よりも、不可解な謎が集まってくる・・・


 『退出ゲーム』に続くシリーズ第二弾。今回もキャラが立った青春ミステリでした。
「スプリングラフィ」
 職員室に鍵がない。だが音楽室の鍵はかかっている。職員室に戻ると鍵は戻されている。いったい誰とすれ違いに・・・どんなに才能があったり努力したりしても、どうにもならないこともある。そうわかっていてもあきらめずにいたい。もちろん、簡単にできることではありませんが。チカにも芹澤さんにもがんばってほしい。
「周波数は77.4MHz」
 勉強の合間にチカは「FMはごろも」を聞いている。ある日、チカは吹奏楽部の予算のために生徒会からの交換条件を呑んだ・・・事情を知ってしまうと、麻生美里の心配りがうれしいです。結末への持って行き方がうまい。
「アスモデウスの視線」
 草壁先生が過労で倒れた。顧問が謹慎になった他校からのヘルプを受けたためだ。謹慎の謎を解く鍵は一ヶ月に三度の席替え・・・ゴリラのような外見からは想像できない堺先生の心。席替えが三度というのだけでもおもしろいですが、その並び方がまた興味を誘います。
「初恋ソムリエ」
 初恋ソムリエを名乗る初恋研究会の朝霧。芹澤は叔母と彼が会うことを阻止しようと、チカとハルタに泣きついてきた・・・叶わなかった初恋なんて、思い出だからこそいいに決まっています。ましてや、今回はその裏にあったこと。やはり、知らなかったほうがよい気がするのです。


 『退出ゲーム』が吹奏楽部を舞台にしながら理系トリックに走ったことと比較すると、今回の『初恋ソムリエ』はややミステリ的な弱さを持っているかもしれません。ただし、決めにかかったときの切れ味は抜群。特に「アスモデウスの視線」における席替えにまつわる興味深い謎とその真相は目を引きます。また、表題作「初恋ソムリエ」は、『退出ゲーム』でも見られた社会派的な要素を色濃く見せている作品。そのあたりが絡むことは登場人物たちの呼び名からも想像できることですが、しっかりときれいに本筋と関連付けられています。
 チカやハルタにとっては「目指せ、普門館」なのですが、それよりも謎の方が積極的に手招きしてくれそう。普門館はまだまだ遠いようです。


収録作:「スプリングラフィ」「周波数は77.4MHz」「アスモデウスの視線」「初恋ソムリエ」
関連作:『退出ゲーム

2009年11月28日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
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初恋ソムリエ
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star高校二年生になったチカ&ハルタと新たな仲間たち
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