大倉崇裕『福家警部補の再訪』

 拳銃をマックス号に隠したという供述によって、豪華客船は船内の捜索を受けて出航時刻が遅れた。しかも、大海原を航行中に今度は客室で撲殺死体が発見される。船内を捜査した結果、密航者らしき女性が見つかったが、この小柄で童顔の女性は警視庁捜査一課の福家だと名乗るのだった・・・(「マックス号事件」


 ドラマ化もされた『福家警部補の挨拶』の続編。なかなかの出来栄えの倒叙推理です。
「マックス号事件」
 航行中の豪華客船で女性の撲殺死体が発見された。乗り合わせた福家は鑑識がいない中、捜査に乗り出す・・・あれに気付くのはさすが女性といったところでしょうか。ラストシーンはまるでドラマでも見ているかのように目に浮かびました。
「失われた灯」
 脚本家の藤堂は、過去の不祥事から古物商の辻に脅迫されていた。ストーカーまがいの三室を利用して、藤堂は一計を立てた・・・犯人を追いつめたあれのイラストがあったほうがよりおもしろかったかもしれません。そういう意味ではドラマ向きかも。
「相棒」
 過去の人気をなくしてしまった漫才師山の手のぼり・くだり。独立したい立石は相方内海の殺害を決意する・・・最後まで互いを信じられなかったふたり。真実はとても淋しく、人間の小ささを教えてくれました。ちょっとした引っ掛かりから犯人へたどり着くことに不自然なものを感じさせないのがすばらしいです。
「プロジェクトブルー」
 玩具企画会社社長の新井は、創業前にしたソフビの贋作をネタに脅迫されていた・・・たったひとつのミスが命取りになる典型的な例。後から考えれば明らかに怪しい伏線も、読んでいるときにはなかなか気づかないものですね。


 女性で小柄で童顔、メガネをかけた刑事。とても殺人を扱う捜査一課とは見えない容姿。それこそが、何を考えているのかわからないという無言のプレッシャーをかけているように感じました。容疑者のもとを何度も何度も、しかも突然訪れ、安心しきったところを追い詰めていくのです。この対決の持つ緊張感が見事でした。読者も彼女がつかんだ手がかりが何であって、どうやって使われるのかわからないのですから。
 ただ、解決までの大まかな流れがパターン化されてきたように感じたのも確か。やはりすこしは違った形もほしい気がしました。贅沢かな。


収録作:「マックス号事件」「失われた灯」「相棒」「プロジェクトブルー」
関連作:『福家警部補の挨拶

2009年9月19日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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