河野裕『サクラダリセット CAT,GHOST and REVOLUTION SUNDAY』

　住民の半数が何かしらの超能力を持つ町・咲良田。僕が持っているのは記憶を保持し続ける能力。春埼は世界をリセットする能力。僕が「リセット」と口にすると、世界は最大3日前のセーブまで戻るんだ。僕たちは管理局の依頼として、死んだ猫を生き返らせることになったけれど、これはリセットにうってつけの依頼で・・・

　「乙一絶賛！！」そんな帯の意味がわかる気がします。
　時間移動ものというと正確じゃないのですが、時間SFの一種。とにかくさわやかで透明で、そしてちょっとひどくて黒いのです。夏の物語ですが、なんだか強い陽射しの下というより木漏れ日の中にいるような印象でした。
　透明感のある文体と、椎名優さんのイラストというのがまた絶妙の組み合わせ。双方が一体となってひとつの世界を作り上げているのがよくわかります。

　登場人物は誰もが少しずつ壊れていて、その壊れ具合がそれぞれの魅力になっているようです。もっとも、一番壊れているのは一見すると常識人に見えるケイかもしれません。あれを本当に実行してしまうあたり、本当にひどいし黒いのです。やっぱり壊れているとしか言いようがありません。でも、それを実行することが相手を含めいろいろな人々のためになることなのであり、ケイの優しさと切なさがそこに垣間見えます。
　また、普段はどちらかといえば感情を表に出さない春埼が、夏祭りのあたりなどケイに対して感情を少しだけ見せたりするのもいいですね。

　いろいろな能力が制約を含めちょっと都合よくできていて一瞬引っかかったのですが、ほとんど気になりません。続きを早く読ませてほしい一冊です。おすすめ。

2009年6月17日読了　【9点】

サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY (角川スニーカー文庫)
	河野裕 角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-05-30 売り上げランキング : 2063 おすすめ平均 変わったタイプの小説 先入観なしで読むのがオススメ 人の優しさには、無条件で肯定されるだけの価値がある。（本文より） Amazonで詳しく見る by G-Tools asin:4044743010　rakuten:book:13198249