樋口有介『雨の匂い』

 父は末期癌、祖父は寝たきりという境遇でひとり介護とアルバイトにあけくれる村尾柊一。祖父の代わりに近所の豪邸の塀塗りを依頼された柊一は、豪邸の娘彩夏と知り合った。AV女優李沙との出会い、ゴミ屋敷の放火、生命保険を狙う母との再会。何かが動き始めた・・・


 樋口さんの得意の青春もの。
 なんとなく、肌寒いような気分にさせられる小説です。物語は比較的淡々と進み、何が起こるのだろうか、何も起きないのではないだろうかと、ある種の不安を覚えます。
 もっとも、ある植物が出てきたことにちょっとした驚きがあり、あとは山から転げ落ちるかのようにすべてのものが動き出すという具合でした。しかも、極めて静かに。


 もともと樋口さんの作品には、物静かで達観したような雰囲気の主人公が多い気がします。この作品ではそれが作品全体に強く押し進められています。極めて静かに進行していく変化。この怖さ、ミステリというよりも一種のホラーです。


 静けさ、暗さ、陰鬱、狂気、そういったものを前面に出しながらも、読者を飽きさせることなく一気にラストまで連れて行く力強さも感じました。こういうのはやはりセンスなのでしょうか。ラスト近くの計画的とも思える行動に思わず唸ってしまいます。

2009年4月26日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
雨の匂い (中公文庫)
雨の匂い (中公文庫)樋口有介
中央公論新社 2007-10
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おすすめ平均 star
star最後は印象的も物足らない
以下単行本版より
star全体的に淡々としていておもしろみがなかった
star青春シュール・ミステリーの域だな。
star終盤になって良く出来たサスペンスだった事に気付かされた

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