有栖川有栖『火村英生に捧げる犯罪』

 大阪府警の捜査一課長宛てに贈られた速達。その内容はprof.Rを名乗る人物からの挑戦状。しかも、「火村英生に捧げる犯罪」とも。一方、アリスのもとには東京からアリスの最新作で盗作されたという人物がいるという電話が。身に覚えのないアリスだったが・・・「火村英生に捧げる犯罪」


 『妃は船を沈める』に続く有栖川さんの新作は、バラエティに富んだ火村シリーズの短編集です。短編の中に掌編がちりばめられています。
「長い影」
 夜、廃工場から出てきた怪しい人影。中には自殺か他殺か断定できない死体が・・・関係者をつなぐ細い糸の使い方が巧み。語り手の切り替えが、緊迫感をより強く打ち出しています。トリックも小粒ですが意表を突かれました。
「鸚鵡返し」
 殺された男は、鸚鵡を飼っていた・・・「そっちか」と手を打つ掌編。火村の語りも珍しいのでは?
「あるいは四風荘殺人事件」
 亡くなった推理小説界の重鎮・里中。その娘がアリスに処理を依頼したノートは・・・短編らしからぬ大仕掛け。でも、まとまったところを読むと短編向きな内容かな。

○○○、というのか? それは疑ったことがなかった。(P121)

って、この可能性ぐらい考えてほしかったなあ。ミステリ作家なら。
「殺意と善意の顛末」
 アリバイは崩された。あとは罪を認めるだけ・・・この長さの中にわかりやすさが丁寧に詰め込まれています。
「偽りのペア」
 殺された女子大生の部屋にはペアルックでの写真が残っていた・・・オチがなんとも言えません。
「火村英生に捧げる犯罪」
 大阪府警に届いた手紙。そこには府警並びに火村に対する挑発が記されていた・・・大きく出た割に火村の言うとおり間抜けな犯人で、思わず失笑してしまいそう。それはそれでおもしろいのですが。
「殺風景な部屋」
 現場は携帯電話も通じない地下だった・・・ちょっと強引な気も。まあ、物にはいろいろな使い方があるということで。
「雷雨の庭で」
 雷雨の夜、男は庭で頭を強打し亡くなっていた。男は隣家の早瀬に誹謗中傷を繰り返していたが、早瀬にはアリバイが・・・犯人は最初から明白。問題はその犯行方法とアリバイ崩し。解き明かした火村が証明して見せる様子が切なく悲しい事件。


 相変わらずハズレがないうまさ。短編集とあってやや軽めの感はありますが、安定感とわかりやすさは素晴らしい。これでひとつふたつ突出した作品があればとも思うのですが、それは欲張りでしょうか。
 あとがきを読むと、J-ミステリ倶楽部で書いた掌編での苦労がよくわかります。短くまとめるというのは本当に難しいのでしょうね。


収録作:「長い影」「鸚鵡返し」「あるいは四風荘殺人事件」「殺意と善意の顛末」「偽りのペア」「火村英生に捧げる犯罪」「殺風景な部屋」「雷雨の庭で」
関連作:『46番目の密室』『ダリの繭』『ロシア紅茶の謎』『スウェーデン館の謎』『海のある奈良に死す』『ブラジル蝶の謎』『英国庭園の謎』『ペルシャ猫の謎』『絶叫城殺人事件』『乱鴉の島』『妃は船を沈める

2008年10月30日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
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火村英生に捧げる犯罪
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