深水黎一郎『トスカの接吻 オペラ・ミステリオーザ』
東京で公演されていたオペラ『トスカ』。女優は演出家の指示どおり、男優の頚動脈めがけてダミーのナイフを振り下ろした。だが、吹き出したのは血糊ではなく本物の血。男優はその場で絶命した。何者かによって、ナイフは本物とすりかえられていたのだ・・・
オペラ『トスカ』を題材にとりあげたミステリ。一般的にはなかなかとっつきにくい印象があるオペラですが、冒頭からわかりやすく説明されていて全く心配はいりません。むしろ、興味がなかった人でも「一度見てみようか」と思うこともあるのでは。もちろん、知っているほうが楽しめることは間違いないでしょう。
ミステリとしては、開かれた密室、見立て殺人、すりかえられた凶器、残されたメッセージなど、ミステリらしいガジェットがふんだんに盛り込まれています。それらをうまく活用しながら、最後に明かされる真犯人への道筋をひとつひとつ丁寧に逸らしていく手際のよさに感心させられます。もちろん、読んだあとでなければわかりませんが。
ただし、若干地味なのがネックでしょうか。物語自体が派手とはいえないので、せめて探偵役の瞬一郎ぐらいは派手でもいいのではないかと思うのですが、こちらも博識ではあるものの派手とはいえないでしょう。そういう面では損をしているようです。もっとも、異色の登場人物といえばあの警部がいますが。
作中では登場人物の名を借りて、『トスカ』の新解釈が提示されているのがおもしろい趣向かもしれません。少し前に読んだ『妃は船を沈める』では『猿の手』の新解釈が紹介されていましたが、こういうのは最近の流行なのでしょうか。
トスカの接吻 オペラ・ミステリオーザ (講談社ノベルス フK- 3) | |
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