恩田陸『夏の名残りの薔薇』

 山奥のクラシックなホテルを会場に、毎年秋に催されるパーティー。親戚や関係者を客として招き、待ち受けるのは沢渡家の三人姉妹、伊芽子、丹伽子、未州子。だが、ある人物が変死を遂げたことから、今年のパーティーは例年とは違うものになっていく・・・


 文藝春秋の「本格ミステリ・マスターズ」から刊行された作品。本格ミステリというジャンルとしての出来はさておき、恩田陸というジャンルの中心にあるような作品でした。
 山奥のクラシックなホテルというのは、それだけでワクワクするようなミステリのシチュエーションです。しかも、それを用いるのが恩田陸。どれだけ幻想的でどれだけトリッキーなミステリを見せてくれるのか、期待が高まります。
 実際、かなり幻想的な作品でした。シチュエーションはもちろんのこと、虚言癖のある三姉妹や謎の多い教授、不倫の上に愛しあう姉弟など、一癖も二癖もある登場人物たちとその複雑な関係、そしてもうひとつの要素がなんとも不思議で幻想的な世界をつくりあげています。これぞ恩田陸。大いに楽しませてくれます。


 その一方で、上で伏せた“もうひとつの要素”が本格ミステリというジャンルで通用するものなのか、判断しかねる部分がありました。どうなのでしょう。「本格ミステリ・マスターズ」ということで強く本格ミステリを意識している方にはあまり評判がよくないかもしれません。
 また、作中には恩田さんがインスピレーションを受けたという『去年マリエンバードで』からの引用部分が多く挿入されていますが、内容と関係ないと思われるだけにかえって読みにくく、残念でした。
 この幻想的な雰囲気を持つミステリ、読み手を選ぶかもしれませんが、選ばれた読み手を十分に楽しませてくれる作品です。

2008年5月19日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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