三雲岳斗『少女ノイズ』

 「適当な人材を探していたの」皆瀬梨夏のその言葉で予備校「雙羽塾」のアルバイト講師に決まった高須賀克志。だが、その実態は学校では優等生でありながら塾では無気力な問題児斎宮瞑の監視役だった・・・


 恐ろしく頭が切れる美少女瞑と殺害現場の写真撮影を趣味とする大学生スカのコンビによる連作短編集。表紙になっている大きなヘッドフォンをした瞑や、三雲さんの過去の作品のイメージからバリバリのSFミステリを予想していましたがそんなことはなく、ストレートな現代ミステリでした。


「Crumbling Sky」
 小学生の頃、除幕式中にスカの目の前で担任が亡くなった。空から降ってきた何かが当たったらしい。しかし、スカには曖昧な記憶しかない・・・収録された5編中、これが一番わかりにくく、そして釈然としないものが残る作品でした。理解できても、そこに作為的なものを感じてしまうのです。
「四番目の色が散る前に」
 廃業したファミレスの駐車場で見つかった少女の死体。そこにはあるはずの右腕がなかった。やがて左腕のない死体も・・・有名な古典作品がうまく利用されています。そんな名前の●●があるなんて知りませんでした。
「Fallen Angel Falls」
 机の中に入れられたガラス片で手を切ったり、駅の階段で突き落とされそうになった少女は、自分は呪われていると言う・・・人間消失ネタをうまく絡めた一編。心中事件絡みですから当然といえば当然な心理が生かされています。
「あなたを見ている」
 もう何年もストーキングされている少女。家の中にいたストーカーを刺したが、部屋に逃げ込んだ間にスト−カーだけでなく、事件の痕跡も消えていた・・・これも人間の心理というか感情を活用した作品。また、この作品を時系列的にこの位置へ置き、次へつなげるのはうまい構成ですね。
「静かな密室」
 スカが試験監督をしている間にもう一人の試験監督が撲殺され、スカは容疑者に。しかも彼は翌日部室で火災事故に遭い、入院していた・・・これまでとは異質なトリック重視の作品。瞑がバッサリと事件を切る様がなんとも爽快です。ただ、それだけに今まで重視されてきたロジックは若干見劣りするかも。


 ミステリとしてきれいにまとまっている作品集です。積み重ねられたロジックが人間の心の奥底にあるものを読み解くことで解明されることに感心するばかり。また、トリックは決して大掛かりなものではなく、いたってシンプル。スカではわからないのに、瞑が説明すると非常にわかりやすいという絶妙なライン上にあります。
 しかし、全体的には瞑のキャラクターで引っ張っている印象が強く残ります。スカに対する口調はどこか冷たく突き放したかのようですが、それでいて好意を持っている様子もそこかしこから垣間見ることができます。少しずつ縮まりながらもなかなかはっきりしない二人の距離も魅力的。
 「静かな密室」でシリーズ的にはまとまっているので続編は出ないかもしれませんが、ぜひ続きを読ませて欲しいと思わせる作品でした。というか、皆瀬から『i.d.』や『レベリオン』にもつながっているそうで、そちらも読みたくなりました。


収録作:「Crumbling Sky」「四番目の色が散る前に」「Fallen Angel Falls」「あなたを見ている」「静かな密室」

2008年2月20日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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少女ノイズ
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