乃南アサ『凍える牙』
深夜のファミリーレストランで、客の男が突然燃え上がるという事件が起きた。男の死因は焼死。しかし、男の脚には動物に咬まれた傷があった。機動捜査隊の音道貴子はベテランの滝沢とのコンビで捜査にあたるが、同じような動物による咬殺事件が相次いだ。
第115回直木三十五賞受賞作。さすがに楽しく読みました。
警察組織という男の世界。そこで貴子は機動捜査隊に所属しています。当然のように貴子は女性としてある時は疎まれ、またある時は蔑まれ、負けるものかと必死で抵抗するのですが、不思議なことにそれをくどいとは感じませんでした。幾度となくそういった記述が繰り返し見受けられるのにもかかわらず、です。これが作家の巧さか、力量かと痛感しました。凡庸な作家であればきっとそのくどさが際立ったのではないかと。
また、男性社会における女性の抵抗を描くのと同時に、男性社会で女性を扱うことの難しさにも触れていて、なかなか考えさせられます。
ミステリとしては、「新潮ミステリー倶楽部」の1冊として刊行されたわりには、若干ご都合主義的に感じる部分もあり残念でした。特に後半部分はかけあしだったようにも思われます。ただ、それを補って余りある筆力で、作品にのめりこみました。これはいい作家さん、いいシリーズにめぐり会ったのかも知れません。
【感想拝見】- 粋な提案さま(2010.02.25追加)
凍える牙 (新潮文庫) | |
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