福田栄一『エンド・クレジットに最適な夏』

 貧乏学生の晴也に友人の和臣から仕事が持ち込まれた。それは、和臣の知人の女子大生・美羽を付け回す不審な男を捕まえるというもの。報酬は20万円。だが、これを皮切りに晴也は次々と厄介ごとを引き受けてしまうことになる。手始めは、美羽の隣に住む女子大生の安否の確認だった。彼女は家族でも連絡が取れなくなっていた・・・


 福田栄一=ユーモアミステリを書く作家、というイメージを持っていました。読んでもいないのにあらすじや評判から、『A HAPPY LUCKY MAN』や『玉響荘のユーウツ』といった旧作は、きっといずれもドタバタとしたコメディで、それらを世に送り出した福田栄一はユーモアミステリ専門の作家なのだろうと認識していたのです。
 しかし、それは大きな間違いでした。ユーモアミステリ作家の側面はあるかもしれませんが、それだけではないのです。この『エンド・クレジットに最適な夏』はその証明に最適な作品でした。
 緻密に計算された構成は晴也を芋づる式に事件に絡ませ、めまぐるしい展開で読者を飽きさせず、それでいて常に読者に寄り添い、置いてけぼりにはしません。数々のトラブル一つひとつは小粒ながらも、それぞれが時間軸で重なり合うだけでなく人物でも絡まりあうことにより全体像を複雑にし、それでいて文章は読みやすいことで読者の理解を補っていると言えるでしょう。実際、読んでいて登場人物や物語がわからなくなって前を読み返すようなことはありませんでした。それは、常にあちこちから携帯電話に連絡が入り東奔西走しながらも、事件を見失うことのない晴也の姿と重なる気もします。


 ただし、主人公晴也がトラブルシューターとして活躍していくのに必要な能力を得たのが、荒廃していた中学校生活に端を発したかのように設定されているのはどうでしょうか。作中にあったような荒れ果てた中学校が現実にあるとは考えにくいし、考えたくもないのです。その辺を、もう少し現実的な設定にしてほしかったです。他の部分が現実的なだけに、ここだけ浮いてしまった気がします。


 とはいえ、最後に用意されたほろ苦い結末も、2人の様々な会話が思い浮かぶだけにサプライズとして効果的で、非常に楽しませてくれた作品です。おすすめしたい1冊。 

2007年6月3日読了 【9点】にほんブログ村 本ブログへ

エンド・クレジットに最適な夏
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書評
福田栄一
東京創元社 2007-05
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おすすめ平均 star
starエンド・クレジットまでは遠く長い道のりが・・・
star物足りない部分もあるが、おもしろかったです。

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