樋口有介『11月そして12月』
高校、そして大学と続けて中退してしまった晴川柿郎。決して社交的ではない彼は、仕事にも就かず、ただカメラをいじり、街中に生息する動物や昆虫に対しシャッターを切っていた。だが11月のある日、高田馬場で山口明夜という女性と出会って以来彼の生活は忙しくなり、周囲もあわただしく動き始めた。
急激に文庫化、再文庫化が進む樋口さんの作品群ですが、文庫化されていない作品も数多くあります。この『11月そして12月』もそういったものの1つで、1995年の単行本刊行以来文庫化されていません。
ということで期待していたのですが、ちょっと期待はずれでした。
今まで読んだ樋口作品というのは、たとえ主人公が世を達観し、悟りを開いているかのようであっても、どこか爽やかで、いきいきと動いていた気がします。それがどうでしょう。柿郎は行動力がないわけではないのですが、いきいきというイメージとは程遠く、むしろどんよりと澱んでいるかのよう。これでは読んでいて楽しくはない。
また、ミステリ分がないのも影響しているのかも。いままでも「ミステリらしくないミステリ」あるいは「ミステリの体裁をとった青春小説」だったのですが、そういったものもありません。山口明夜の問題と柿郎の家族の問題が同時であるにもかかわらず、全く絡まないのも拍子抜けでした(現実的には絡むほうがまれですが)。
軽妙な会話とか語り口は健在だけれども、僕にとってはあまりおもしろい作品ではなかったということになってしまいます。考えさせられることとかあったけれど。
11月そして12月 | |
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