恩田陸『黒と茶の幻想』
学生時代の同級生利枝子、彰彦、蒔生、節子の4人は、卒業から十数年を経て世間から隔絶されたようなY島へ旅する。それは美しい謎を解き、過去を取り戻すことを目的とした旅だった。4人はひたすら雄大な自然の中を歩き、持ち寄った謎や疑問に思いをはせる。その行き着く先は、あの日あのときそしてあの人・・・
『三月は深き紅の淵を』にちらりと登場する作品、それがこの『黒と茶の幻想』です。
ストーリーとしては4人がただひたすらY島の大自然の中を歩く、ただそれだけです。ただし、4人とも呆れるほどによく喋り、そしてよく思い出してくれます。
利枝子から彰彦、蒔生、節子という順で1章ずつ視点が変わっていきます。この構成が絶妙で、それぞれの視点が見聞きしたこと、感じたことを用いて巧みに展開されていきます。ただし、利枝子視点が第一章だったためか、常にリーダーシップをとる彰彦ではなく利枝子が中心にいるような錯覚を覚えました。
また、歩く過程でそれぞれに語る小さな謎(落とされる漬物石、同じ格好をした2人の老婆etc.)がいくつもとりあげられます。それ自体は興味深いものもあります。4人がどんな結論を出して納得させるのかと。ただ、最終的に放り出されたかのようにもっともらしい真相にたどり着かなかったりして、物語トータルで考えると余計な回り道をしている気がしないでもありません。ここからまたいくつもの長編へと展開してシリーズを広げていったらすごいのですが。
『ネバーランド』とか『夜のピクニック』とか、なんとなく似たようなイメージはしてしまうのですが、それでも恩田さんはやっぱり上手いですね。物語の匠です。
もっとも残念だったのは憂理のことでした。作中における一番の謎として、せっかく再登場したのですが、『麦の海に沈む果実』のときとはちょっと違うイメージ。しかもこういう形での再登場とは思いもしませんでした。本当に残念。『黄昏の百合の骨』での理瀬には成長が見えただけに結構ショックですね。
ふたたび4人が旅に出るときに、残された謎をキッチリ解決してほしいです。賭けはどちらが勝つのでしょうか。
【感想拝見】
- + ChiekoaLibrary +さま
- "やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書!!さま
- AOCHAN-Blogさま
- 粋な提案さま(2009.04.23追加)
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