谷原秋桜子『砂の城の殺人』

 行方不明になった父を探しにスペインへ渡るため、バイトに精を出す倉西美波。今回武熊さんから紹介されたバイトは廃墟撮影のアシスタント。ところが、向かった先は廃墟となったカメラマンの生家、待ち受けるのはカメラマンの異母兄。しかも、そこではミイラ化した死体が。おまけに豪雨で橋は流され廃墟は陸の孤島に・・・


 富士見ミステリー文庫から創元推理文庫へと華麗なる(?)移籍を果たした谷原さんのシリーズ3作目は書き下ろしの新作です。
 きっとこういう本格らしい本格ミステリが書きたかったんだろうなあ、と思わされるような仕上がり。いろいろな要素を詰め込み、前2作よりも更に本格ミステリらしく、しかもちょっとだけ怪異方向へ傾きかけているようです。
 相変わらず伏線はきれいにしっかり引かれ、どんでん返しもこれでもかとばかりに繰り返されます。そういう意味では、丁寧に作りこまれたオーソドックスな本格ミステリと言えるでしょう。


 道具立てとしては、嵐で孤立した廃墟、移動するミイラ、密室殺人、10年前の失踪者、異母兄妹と怪しさ満点。これだけ揃っていると、富士見時代からのあまりミステリを読んでいないファンは、出した手をちょっと引っ込めかねない気さえします。
 でも、すらすらと読むことができ、あまりおどろおどろしさは感じません。これもすべて美波の類まれなキャラクターのおかげでしょうか。登場人物はよくある定形フォーマットに当てはめたかのようでいささか残念なのですが、このシリーズの流れを考えれば仕方のないことでしょう。むしろ、その登場人物たちを巧みに使いこなしていると言えます。シリーズキャラクターとして美波と直海、そしてネコのケンゾウが出ずっぱりなのですが、ちゃんと修矢とかのこもおいしいところを持っていきます。それぞれに見合ったところを。ちゃんと使いどころを心得ていると言うべきでしょうか。
 まあ、何にせよ創元推理文庫に移ったおかげでこのシリーズが読めるのですから万々歳です。次回作も期待。


関連作:『天使が開けた密室』『龍の館の秘密

2007年4月7日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
おすすめ平均
starsからまわり
stars砂の城」≒廃墟
stars登場人物に好感を持てませんでした
starsよけいなやり取りが目立つ

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