剣持鷹士『あきらめのよい相談者』

 剣持鷹士さんの『あきらめのよい相談者 (創元推理文庫)』を読了。


 福岡にある藤堂弁護士事務所に勤めるイソ弁の剣持鷹士。イソ弁の立場上、時に変わった依頼や印象に残る相談者に出くわすときがある。そんなことを打ち明ける相手は友人のコーキ。司法浪人のコーキは、物事の本質を見抜き論理的に説明する能力が人並みはずれていた。


 第1回創元推理短編賞(現・ミステリーズ!新人賞)を受賞した表題作「あきらめのよい相談者」を含む短編集。本書は現在のところ氏の唯一の著作ですが、この受賞以前に発表された『競作五十円玉二十枚の謎』には最優秀賞受賞作が含まれています。
「あきらめのよい相談者」
 初老の相談者がホテルでけがをしたので訴えたいとやってきた。体よく断ると彼はあっさり引き下がったが、他の弁護士仲間を片っ端からたずねていた。彼の真意は・・・
「規則正しいエレベーター」
 マンションで暮らす友人広瀬が出勤するとき、エレベーターは2階に停まっている。多くの場合1階に停まっているはずだが・・・
「詳し過ぎる陳述書」
 新興宗教にはまった夫と離婚したい女性。夫側から提出された陳述書には覚えのないことが書かれていた。偽っているのは・・・
「あきらめの悪い相談者」
 ニュースで知った殺人事件。容疑者は零細企業の社長で、些細な出来事の度に剣持の元にやってきてしつこく聞き返す相談者だった。被害者は?


 現役の弁護士である作者による弁護士ものの短編集ですが、裁判を扱ったものは「詳しすぎる陳述書」のみで、あとはいわゆる「日常の謎」に近い作品です。そのせいか、思っていたよりも堅苦しさがなく、読みやすかったです。コーキという安楽椅子探偵に説明する必要があるからかもしれません。あるいは職業柄わかりやすい文章を書く能力に長けているのかもしれません。
 ミステリとしてはやや軽く、なんとなく展開がわかってしまう部分もしばしば見受けられました。ただし、どの作品も最後でするすると鮮やかに謎を解き明かしてくれます。中でも、もっとも「あっ!」という驚きを与えてくれた作品は「詳しすぎる陳述書」でした。
 残念なことに、現在のところこのデビュー作が最後の作品となってしまっています。本業が忙しいのかもしれませんが、ぜひ復活してほしいものです。


収録作:「あきらめのよい相談者」「規則正しいエレベーター」「詳し過ぎる陳述書」「あきらめの悪い相談者」

2005年9月28日読了 【6点】にほんブログ村 本ブログへ
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star主人公が好きになれませんでした
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