近藤史恵『二人道成寺』
探偵今泉文吾が登場する歌舞伎ミステリの第4作。
3ヶ月前の火事が元で、岩井芙蓉の妻・美咲は意識不明に陥り、以後眠り続けている。名門出身の女形である芙蓉とはライバル関係にあり、梨園では不仲と噂される中村国蔵は、何故かこの火事を不審に思い、瀬川小菊の紹介を得て今泉に調査を依頼した・・・
今泉とは別の視点から真相に迫ろうとする小菊の語りと、1年前から現在まで順にたどる芙蓉の番頭であり美咲の友人である玉置実の語りが交互に登場する形で物語は進んでいきます。その構成は本格ミステリそのものかも知れませんが、物語の主題はミステリ的部分よりもラブストーリーに傾いている気がします。今泉の出番も少なめです(もちろん、実の語りでは登場しませんし)。ラストで読者を驚かせるようなインパクトが、イマイチ欠けていた気がします。
筋書きはシンプル。しかし「二人道成寺」「摂州合邦辻」などの演目が物語を盛り上げ、そして真相が明らかになったときにより切なくしてくれます。あとがきにあるように、歌舞伎と本格ミステリはどちらもお約束が決められています。そのお約束=様式の美しさをうまく併せ持たせた作品ではないでしょうか。
歌舞伎に詳しい人も、そして詳しくない人も楽しむことができる恋愛ミステリの佳作です。
関連作:『桜姫』
二人道成寺 (本格ミステリ・マスターズ) | |
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