アンソロジー『血文字パズル』
年末から少しずつ読んでいたアンソロジー『血文字パズル―ミステリ・アンソロジー〈5〉 (角川スニーカー文庫)』を読了。タイトルに「血文字」とあるように、ダイイングメッセージをからめたミステリの短編アンソロジーです。
以下、各編について。
●有栖川有栖「砕けた叫び」
探偵事務所の所長が殺害された。残されたのはムンクの『叫び』に描かれている「叫ぶ人」の人形だった。おなじみの火村とアリスのコンビがダイイングメッセージに立ち向かう。おもしろいが、これほどまで考えてメッセージを残すものか疑問に思われる。
●太田忠司「八神翁の遺産」
都市を作った偉人の孫が殺害された。瀞井警部と蜷沢は名探偵デュパン鮎子に相談するが・・・ダイイングメッセージよりも鮎子の能力の印象が強い作品。
●麻耶雄嵩「氷山の一角」
メルカトル鮎と美袋三条が入れ替わって、芸能マネージャー殺しの謎を解く。きわめて意識的なダイイングメッセージへのアンチテーゼ。
●若竹七海「みたびのサマータイム」
17歳の誕生日に渚は思い出の崖の上に10年ぶりに行く。そこで出会った剣野の姉は崖の上の廃墟で服毒死したという。意外な真実を決定づけるダイイングメッセージがピリッと効いている。
全体として感じることは、ダイイングメッセージの限界です。ダイイングメッセージはその意味を解釈して犯人を推理するのですが、本当に被害者が書いたものなのか、それとも犯人あるいは第三者が加工したものなのか、死の間際に被害者が正確なメッセージを残せたのか、そしてそもそもそれがダイイングメッセージなのかという不安定な要素を含んでいます。すなわち、ダイイングメッセージに自由度の幅が広く、それゆえに結論(犯人)を導き出す絶対的な根拠になり得ないのではないかと。それをもっとも意識的に扱ったのが「氷山の一角」でしょう。「みたびのサマータイム」の青春風味もよかったです。
収録作:有栖川有栖「砕けた叫び」/太田忠司「八神翁の遺産」/麻耶雄嵩「氷山の一角」/若竹七海「みたびのサマータイム」
関連作:『名探偵は、ここにいる』『殺人鬼の放課後』
血文字パズル―ミステリ・アンソロジー〈5〉 (角川スニーカー文庫) | |
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