森晶麿『恋路ヶ島サービスエリアとその夜の獣たち』

恋路ヶ島サービスエリアとその夜の獣たち (講談社文庫)

恋路ヶ島サービスエリアとその夜の獣たち (講談社文庫)

 

 その日は理代子にとって運命の日だったのかもしれない。結婚を約束していた男の浮気が発覚し、恋路ヶ島サービスエリアでの深夜バイトは浮かない気分だ。でも、たった一言がそんな夜を変えた。「静かな夜には口笛を吹きたくなる奴がいるものです。口笛が聴こえる夜は、もうすでにいつもの夜とは違いますからね」・・・・・・

 観覧車のあるSAが舞台ということで、何度か行ったことがあるPAを思い出してしまいます。あそこも夜になると何か事件が起きるのだろうか、なんて考えてみたり。

 あれもこれもといろいろなものを少しずつ詰め込んで、結果として少々中途半端になってしまった印象。どれもそれなりに魅力的で、気になる話なのに。物語の最初に登場し、文庫の表紙にも描かれている理代子が主人公なのでしょうが、その印象はずいぶん薄い気がします。おそらく登場人物の中でいちばん普通な人だから。あらすじだけ見たら、「恋路ヶ島SAの売り子は一年以内にプロポーズされる」とか「口笛の聞こえる夜はいつもの夜とは違う」とか、いかにもおもしろそうなのですが、どうもほかのいくつかの部分の方がインパクトがあったのです。
 たとえば、某司会者によく似せたあの男はどんな形で関係にケリをつけるのか、死体を運んでいる(ことになっている)兄弟はどんな結末を迎えるのか、なんておそらくは第二第三の話が結構魅力的に描かれています。こっちはこっちでよかったと思うのですが、どうにも無理やり絡めた感じがしてしまって。

 簡単に言うと、作者の意欲が見える作品であることは間違いありません。読み手がどこに力を入れるか、誰に注目するかで感じ方も変わってくるのではないでしょうか。

2017年1月4日読了 【6点】にほんブログ村 本ブログへ

円居挽『日曜は憧れの国』

日曜は憧れの国 (創元推理文庫)

日曜は憧れの国 (創元推理文庫)

 

 母親に指示され、四谷のカルチャースクールに体験で5回通うことになった千鶴。最初の料理教室では同じ中学二年生4人のグループを作ることになり、慣れないカレー作りに挑む。初対面でタイプも違う4人は、ぎくしゃくしながらもなんとかカレーを作り上げるが、そこで盗難事件が。その顛末に納得がいかず、4人は帰りの道すがら、真相に思いを巡らす・・・・・・(「レフトオーバーズ」)

 円居挽の最新作(ですよね)は、日常の謎を取り上げた短編集。ちょっと意外な感じがしました。

 いわゆるカルチャースクールに5回だけ通うことになった中学二年生が、各話交替で語り手を務める形の連作短編集です。ひとつひとつの謎は若干小振りな感じ。大人なら見向きもしないというか、むしろ見て見ぬふりをするようなものも多くあります。そこに疑問を感じ、関心を持って謎を解き明かそうとするのには、好奇心旺盛な中学生ぐらいがちょうどいいのかもしれません。登場する4人も千鶴、桃、真紀、公子とキャラクターが異なり、様々なジャンルがごちゃ混ぜになっているカルチャースクールと共通するような部分があります。

 4人が導き出す謎の真相は、憶測が混じっているようで若干納得していいのか疑問が残るものも。彼女たちのできる限界までの範囲でたどり着いたものと考えれば、仕方ないのかもしれません。いや、むしろそこまでにとどめているのが、等身大の中学二年生を表現していていいようにも思えます。

 中学生を主人公に置いた青春小説としては、後半の「幾度もリグレット」、そしてラストの「いきなりは描けない」と、彼女たちの成長が窺えるのがいいですね。とくに、公子にとって他の3人の考え方は目からうろこが落ちるようなものではないでしょうか。
 今までの作風とは少し異なりますが、クセがない分むしろこちらの方が一般受けしそうな気がします。どちらかといえば今までがマニア向けでしたからね。広くおすすめできる一冊です。

収録作:「レフトオーバーズ」「一歩千金二歩厳禁」「維新伝心」「幾度もリグレット」「いきなりは描けない」

2016年11月20日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ

辻村深月『東京會舘とわたし 上 旧館』『東京會舘とわたし 下 新館』

東京會舘とわたし(上)旧館

東京會舘とわたし(上)旧館

 
東京會舘とわたし(下)新館

東京會舘とわたし(下)新館

 

 東京・丸の内、皇居の御濠を臨むように建てられた社交場・東京會舘。本作は大正11年の旧館竣工以来、常に時代とともにあり続けた東京會舘と、そこで時間を過ごした人々の物語。

 私は地方在住で東京にはあまり縁がなく、東京會舘も名前は聞いたことがあるという程度でした。これほどの歴史があり、文学賞の舞台でもあった場所なのに。

 連作短編集のような体裁で綴られる各編は、その時代その時代の人々、文化、世相を映し出し、時の移り変わりだけでなく時代を超えた人々の物語の流れを感じさせます。各章の登場人物たちは時を超えてさまざまな形で後日の章に姿を見せます。ある人はエピソードとして語られる人物として、またある人は年を重ねた姿で。なんだか東京會舘との強い結びつきを見せられたような気分でした。

 辻村さんにとっての東京會舘は、やはり直木賞の舞台なのでしょう。「煉瓦の壁を背に」の日付は確かに辻村さんが『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞した日。当然ですが、そこには強い思い入れがあったように見受けられます。

 これだけどっぷり浸かってしまうと、東京會舘に行きたくなるのは人の性でしょうか。残念ながら現在は建て替え工事中の東京會舘。数年後に完成した建物にはぜひ行ってみたいと思います。あのシャンデリアもコレニア大理石も見てみたいし、たとえ食事はできなくても、パピヨンは・・・・・・

収録作:「クライスラーの演奏会 大正12年(1923年)5月4日」「最後のお客様 昭和15年(1940年)11月30日」「灯火管制の下で 昭和19年(1944年)5月20日」「グッドモーニング、フィズ 昭和24年(1949年)4月17日」「しあわせな味の記憶 昭和39年(1964年)12月20日」「金環のお祝い 昭和51年(1976年)1月18日」「星と虎の夕べ 昭和52年(1977年)12月24日」「あの日の一夜に寄せて 平成23年(2011年)3月11日」「煉瓦の壁を背に 平成24年(2012年)7月17日」「また会う春まで 平成27年(2015年)1月31日」

2016年11月27日読了 【9点】にほんブログ村 本ブログへ

北村薫『遠い唇』

遠い唇

遠い唇

 

 あのとき、私にとって姉のようだった先輩からの葉書に書かれていたのは、理解できない暗号だった。ただひたすら書きつづられていたアルファベットの羅列。先輩は私に何を伝えようとしていたのだろうか。今なら、わかるかもしれない。コーヒーの香りは、私の記憶を呼び起こした・・・・・・(「遠い唇」)

 ミステリを読む人を、おそらく「読みながら推理する人」と「推理しない人」に分けることができます。私は後者。たとえ「読者への挑戦状」が挿入されていても、振り返って推理するということはまずありません。物語そのものを楽しんでいるというべきか、はたまた推理することをハナっから諦めているというべきか。読み方は人それぞれ異なるでしょうから、読む作品の向き不向きも関係してくることでしょう。
 その意味では、私にとって北村作品は向いているのかもしれません。推理しない読者と、数少ないヒントと知り得ていた知識、そしてひらめきで真相へとたどり着く名探偵、そしてそこに文学の深さ美しさと物語の楽しさを盛り込んでくる作者ですから。

 さて今回の『遠い唇』もまた、はずれのない短編集です。特に印象的だったのは、表題作「遠い唇」、「解釈」、そして「ビスケット」でしょうか。
 「遠い唇」は過去をに思いを巡らせ、解けなかった暗号に再び挑む男の物語。その暗号の内容は、全編に漂うコーヒーのほろ苦さと相まってより切なく感じられます。
 「解釈」は「吾輩は猫である」「走れメロス」「蛇を踏む」の3作を、異星人の目を通して“解釈”したパロディ。あの名作も読者に前提とする知識がなければこんなことになるのかと、目からうろこが落ちるかのような思いです(別に目にうろこを入れていたわけではありません)。
 「ビスケット」はNHKで放送されたドラマ『探偵Xからの挑戦状!』の原作のひとつ。『冬のオペラ』の巫弓彦、姫宮あゆみが再登場し、相変わらずの「名」探偵ぶりを見せてくれます。『冬のオペラ』以後の彼らを知ることができるとともに、その時を経過してしまった名探偵にどこか哀愁を感じます。
 また、「続・二銭銅貨」はやはり元ネタ(すなわち江戸川乱歩二銭銅貨』)を読んでいたなら、より楽しめた気がします。

 総じて謎解きの楽しさを味わわせてくれる作品が並んだ短編集。またいつか巫弓彦が謎を解き明かす姿を書いてほしいものです。

収録作:「遠い唇」「しりとり」「解釈」「パトラッシュ」「続・二銭銅貨」「ゴースト」「ビスケット」
関連作:『冬のオペラ』

2016年12月10日読了 【9点】にほんブログ村 本ブログへ

森晶麿『四季彩のサロメまたは背徳の省察』

四季彩のサロメまたは背徳の省察

四季彩のサロメまたは背徳の省察

 

 学園長の息子として学園全体の中心に位置する華影忍は、同じ朗読部の後輩“カラス”から、ひと月前に出会った女生徒を探してほしいと頼まれる。“歩く女百科全書”を自称する彼にとって難しくない相談のはずだったが、“カラス”から女生徒の特徴を聞くうちに、ありえない事実にたどり着いてしまう。なぜなら彼女、伊能春架は、ひと月前にはこの世にいなかったはずなのだ・・・・・・

 全編とおして、背徳的な香りが漂う作品。正直ここまでそんなシーンを入れる必要があるのかなという気分ではあります。そればかりが強調されてしまって、ひとつの物語の印象を薄めてしまっているように見えます。

 登場人物たちの設定を考えると少々無理がありそうなトリックでしたが、それ以上に心理的な歪みが気になりました。みな朗読部所属ということから「サロメ」の世界観に浸り過ぎてしまっているのかもしれませんが、誰も彼もが歪み過ぎている気がしてなりません。だからこそ、他の方の感想は〈全編エロ〉ってことと〈エピローグ〉にいってしまうことが多いのかな。

 キャラが立った読みやすい作品で、するすると頭に入ってきました。かつて『黒猫の遊歩 あるいは美学講義』が読みにくくて辟易したことがあったのですが、それが懐かしいくらい。もっとも、“歩く女百科全書”華影忍という人物のどこに惹かれるのかだけは、ちっともわかりませんでしたが。

2016年12月23日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ

1月の予定

 ずいぶん感覚があいてしまったので、仕切り直しです。
1/6 加藤実秋 『モップガール 3』 小学館文庫
1/6 太田忠司 『死の天使はドミノを倒す』 文春文庫
1/11 詠坂雄二 『ナウ・ローディング』 光文社文庫
1/12 畑野智美 『感情8号線』 祥伝社文庫
1/12 石持浅海 『殺し屋、やってます。』 文藝春秋
1/13 森博嗣 『女王の百年密室 GOD SAVE THE QUEEN』 講談社文庫
1/13 ロバート・ゴダード 『謀略の都(上) 1919年三部作 1』『謀略の都(下) 1919年三部作 1』 講談社文庫
1/13 大倉崇裕 『蜂に魅かれた容疑者 警視庁いきもの係』 講談社文庫
1/14 森晶麿 『僕が恋したカフカな彼女 1』 富士見L文庫
1/16 吉永南央 『まひるまの星 紅雲町珈琲屋こよみ』 文藝春秋
1/18 古野まほろ 『臨床真実士ユイカの論理 ABX殺人事件』 講談社タイガ
1/20 生馬直樹 『夏をなくした少年たち』 新潮社
1/21 市川哲也 『屋上の名探偵』 創元推理文庫
1/25 古野まほろ 『おんみょう紅茶屋らぷさん 2 ~式神のいるお店で、おかわりをどうぞ~』 メディアワークス文庫
1/25 小路幸也 『札幌アンダーソング 間奏曲』 角川文庫
1/25 柴崎友香 『週末カミング』 角川文庫
1/25 麻見和史 『警視庁文書捜査官』 角川文庫
1/25 河野裕 『片手の楽園 サクラダリセット 5』 角川文庫
1/25 初野晴 『惑星カロン』 角川文庫
1/28 辻村深月 『盲目的な恋と友情』 新潮文庫
1/28 宮部みゆき 『小暮写真館 3 カモメの名前』『小暮写真館 4 鉄路の春』 新潮文庫nex
1/28 有栖川有栖 『狩人の悪夢』 角川書店

2月のまとめ

2/3 米澤穂信 『王とサーカス』 東京創元社
2/11 佐々涼子 『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』 早川書房
2/21 夏川草介 『神様のカルテ 0』 小学館
 2月の読了本は3冊、購入は13冊でした。