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辻村深月『朝が来る』 

 望んでいた子どもを授かることができず、特別養子縁組により子どもを得た栗原夫妻。我が子同然に育ててきた朝斗が6歳のある朝、リビングの固定電話が鳴った。電話口の女は言う。「子どもを、返してほしいんです」と。平穏な日常に、不穏な影が紛れ込んできた・・・・・・

 

 不妊治療、特別養子縁組・・・・・・その重そうなテーマから、なかなか手を伸ばすことができなかった作品。読み始めたらイッキ読みでした。

 異なる形で、“子ども”の存在をめぐって時に周囲と戦い、時に葛藤してきた二人の女性の物語。
 “普通”とは何なのか、その固定観念に縛られてはいけないと常に頭の片隅にはありましたが、あらためてその難しさを教えられました。
 世間一般が持つ“普通”を打ち破るのは並大抵のことではないのです。
 だからこそ、朝斗を迎えた栗原夫妻の態度や言動が輝いて見えます。本人にも、周囲にも隠すことなく話す。それは「ベビーバトン」の決まりに則るだけではなく、自分たちの家庭の現状をあるがままに受け入れていく強い意志のあらわれにも見えます。
 もうひとりの主人公、ひかりの場合は無自覚的に“普通”を押しつけてくる大人たちに潰されてしまったかのよう。いちばん理解し支えになってほしい身内が一番の敵になってしまっていて、救いがありません。もっとも、気の毒なのと同時に彼女の幼さや弱さも見え隠れしていうのは確か。

 

 佐都子とひかり、ふたりの女性の人生を対比的に描いた辻村さん。どちらをより書きたかったのか想像すると、ひかりなのかなあという気はします。
 祈らずにはいられません。彼女たちのこれからの人生に幸多きことを、そして光が射し込むことを。

2015年11月30日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
朝が来る

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