坂木司『ホリデー・イン』

 学校で「お母さん」と呼ばれる進。それが元で学校で大喧嘩を起こしたこともある。おとこらしさってどういうものだろう。そう考えると、無性に父親に会いたくなってきた。死んだことにされている父親に。顔も名前も知らない父親に・・・・・・(「前に、進」


 『ワーキング・ホリデー』『ウィンター・ホリデー』からのスピンオフ作品集。
 ジャスミンに始まり雪夜やナナの物語が語られるわけですが、もともとこの「ホリデー」シリーズは大和と進という離れていた父子の休暇中の生活を描いた物語。よって、中心になるのはやはり進が父親に会おうと決断した「前へ、進」や、ジャスミンが大和を拾った当時の「ジャスミンの残像」ということになります。シリーズ直結の二編です。


 特に「前に、進」は、進の年齢相応と思える子どもらしさと、「お母さん」と呼ばれるのもうなづける大人っぽい一面が微妙に表現されていて、物語の展開と合わせてシリーズに必要不可欠な一編だと思わされます。
 また、「ジャスミンの残像」はジャスミンの魅力満載の一編。特にジャスミンの懐の広さに魅かれます。と同時に、破天荒な大和の妙な魅力も読者を惹き付けます。この二編が巻末に収録されているあたり、うまいなあ。


 他の四編は本当にサイドストーリーらしい作品です。ジャスミンが拾った男との一夜の出来事「ジャスミンの部屋」、ノー天気な大東が家族のことを真剣に考えた「大東の彼女」、ナンバーワンの雪夜の知られざる一面「雪夜の朝」、ナナがクラブ・ジャスミンに通うようになったわけ「ナナの好きなくちびる」といったところ。どれもシリーズの登場人物をより深くする作品に違いありません。
 シリーズ二作を読んできた読者なら読みのがせない一冊といえそうです。もし、まだこのシリーズを読んでいないのであれば、続けて読むことをオススメします。


収録作:「ジャスミンの部屋」「大東の彼女」「雪夜の朝」「ナナの好きなくちびる」「前へ、進」「ジャスミンの残像」
関連作:『ワーキング・ホリデー』『ウィンター・ホリデー』

2014年9月3日読了 【6点】にほんブログ村 本ブログへ
ホリデー・イン

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