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市井豊『聴き屋の芸術学部祭』

review

 生まれついて聴き屋体質の柏木はT大芸術学部生。芸術学部祭では火災報知機が鳴る建物に飛び込んで黒焦げの死体を見つけてしまい、劇団〈ザ・ムーン〉からは結末の欠けた脚本を完結させることを迫られる。聴き屋体質だけでなく巻き込まれ体質もあわせ持つ? 柏木の論理はどこへ着地するのか・・・・・・


 第5回ミステリーズ!新人賞佳作の表題作をはじめとする短編集。
●「聴き屋の芸術学部祭」
 学部祭中に美術棟で火災報知機が鳴り、スプリンクラーが作動した。中には黒焦げの死体が・・・佳作ではなく受賞でもいいような出来栄え。運が悪かったとしかいいようがありません(受賞作は梓崎優砂漠を走る船の道」)。その部屋で行われていたことと動機、そして学部祭での何気ない出来事を巧みに組み合わせ、ひとつの事件に仕立てています。
●「からくりツィスカの余命」
 劇団〈ザ・ムーン〉の内紛により、月子に強いられ結末の欠けた脚本を完結させることになった柏木。脚本家の考えた結末は・・・作中作〈からくりツィスカの余命〉を使った構成が見事。演劇という制約された状況が逆手に取られています。
●「濡れ衣トワイライト」
 模型部の紅一点による宇宙センターの模型が破壊された。疑われた牧野は柏木を頼ることに・・・何気ない部分が伏線としてしっかり回収されていて、その手腕に驚かされます。やっぱり、こういうのがきれいに極まると気持ちいいですね。
●「泥棒たちの挽歌」
 露天風呂に行こうとした川瀬と柏木は、宿に泥棒に入ろうとした二人組と遭遇。揉めているうちに刺殺体を見つけてしまう。通報もできず・・・他者に頼ることなく、何が起きたのか解明していく経過がおもしろい作品。テーマもさることながら、構成力の勝利。


 アクの強い人物をそろえ、コミカルに物語を進めながらも、きっちりと論理で構築された短編集。作品ひとつひとつはバラエティに富んでいてバラバラにも見えかねませんが、一冊の短編集として振り返ると統一感が出てくるという不思議なもの。どの作品も様々な要素を複雑に重ね合わせた粒揃いです。
 刊行から3年近くがたち、文庫化の情報も流れてきました。そろそろ次回作が期待されるところです。


収録作:「聴き屋の芸術学部祭」「からくりツィスカの余命」「濡れ衣トワイライト」「泥棒たちの挽歌」
関連作:「横槍ワイン」(『放課後探偵団』所収)

2012年3月30日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
聴き屋の芸術学部祭 (ミステリ・フロンティア)

聴き屋の芸術学部祭 (ミステリ・フロンティア)

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