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連城三紀彦『小さな異邦人』

 ある日、柳沢家にかかってきた電話。それは誘拐を意味していた。「子供の命は俺が預かっている」。柳沢家には一代を含め8人の子供がいるが、誰一人として欠けた者はいないはず。では、誘拐されたのは誰なのか、それとも・・・・・・(「小さな異邦人」)


 昨年、連城さんの訃報を聞き、驚くとともにある種の感慨のようなものを覚えました。彼の活躍は派手なものではなかったかもしれません。しかしながら、彼は間違いなくミステリ界の一等星でした。それを証明するのが、遺作となったこの短編集です。
●「指飾り」
 街で偶然見かけた女性。その後ろ姿は、別れた妻によく似ていた。彼女は、はめていた指輪を路上に放り捨てた・・・・・・別れた妻への未練が哀愁を誘う一編。トリックとか謎解きとかいう作品ではありませんが、スリリングな展開が楽しめます。
●「無人駅」
 北国の駅に降り立った女は、なぜか目立つ行動を繰り返す。女が待つ男とは・・・・・・誰を待っているのか、そもそもこの女は何者なのか。語り手によって様々に揺さぶられてしまう作品です。
●「蘭が枯れるまで」
 声をかけてきた同級生だという女性と、夫の愚痴でたちまち意気投合した有希子。やがて思いもよらない提案が・・・・・・読み進めるにつれて、何が起きたのかどんどんわからなくなってしまいます。世界がひっくり返るとはこういうこと。
●「冬薔薇」
 繰り返し見る夢。それはレストランで男に刺されるというものだった。目覚めた私はレストランへ・・・・・・こちらはひっくり返るというよりも世界が歪むという感じ。その歪みへの巻き込まれ方が幻想的。どれが現実でどれが夢なのか。
●「風の誤算」
 社内で囁かれるのはいつも水島課長の噂。いくつもある噂は、やがてひとつの方向へ向かっていった・・・・・・真相への捻り具合がおもしろくもあり、おそろしくもあります。事実の裏に隠されたもうひとつの事実が極みです。
●「白雨」
 記憶の底に押し隠した30年以上前の両親の事件。娘へのいじめは何を意味しているのか・・・・・・この反転のさせ方が非常に巧み。二つの時代と二つの出来事をいとも簡単に結び付けてしまったかのよう。
●「さい涯てまで」
 宗谷岬を終点と決め、回を重ねるごとに北へ向かう不倫旅行。その行き先と同じ切符を買う女が窓口に現れ・・・・・・不倫相手の女性の不気味さ、怖さを表現するだけでなく、見事に恋愛ミステリに仕立ててしまった一編。
●「小さな異邦人」
 電話の向こうで男は言う。「子供の命は俺が預かってる」。だが8人の子供は欠けることなくそろっている・・・・・・こんな形の誘拐ものは見たことがありません。傑作。
 これが本当に最後の作品なのかわかりませんが、最後まで連城三紀彦の名前にふさわしい作品を残してくれました。特に最後に置かれた表題作は、誘拐ものの傑作のひとつと言えるでしょう。


収録作:「指飾り」「無人駅」「蘭が枯れるまで」「冬薔薇」「風の誤算」「白雨」「さい涯てまで」「小さな異邦人」

2014年7月5日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ