白河三兎『プールの底に眠る』

 留置場に入れられた僕。そこで思い出されるのは、不法投棄によって荒らされた裏山で出会った少女「セミ」のこと。木の上で首にロープを巻き、自殺しようとしていた「セミ」。彼女とのたった七日間、ひと夏の出来事、13年まえの記憶・・・


 なんともあらすじを紹介しにくい物語です。簡潔にいえば、少女「セミ」と高校生の少年「イルカ」とのボーイ・ミーツ・ガール。それだけではないですが、それ以上でもない。
 淡々と出来事は語られていきますが、その吸引力が半端ない! 一度読み始めたら手放せないような感覚。全体的に刹那的というか破滅的とでもいうような雰囲気が漂い、それが読者の不安を誘い、引きつけます。少しずつ全体像が見えてくるような出し方というのも巧みで、しかもそこに新たな要素を提示して、再び見えない部分が増えてくるのです。


 もっとも、そういった語り口ですから、ストーリーの盛り上がりという面ではイマイチというのは否定できません。どうしても、山あり谷ありといったふうにはなりません。
 どことなく全体に透明感があり、タイトルにもあるプールとか水だとか、そういったものをイメージさせます。もちろんタイトルから想起される部分もあったでしょうが、シンプルな文章と爽やかさが中心となって呼び起こされたというべきでしょうか。


 白河さんの単著はまだ3冊だけなので、積んである『私を知らないで』を早く読みたいと思います。

2013年4月22日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
プールの底に眠る (講談社文庫)

プールの底に眠る (講談社文庫)

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