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石持浅海『届け物はまだ手の中に』

review

 無罪となった殺人犯を復讐のために殺害した楡井。復讐を捨ててしまった親友設楽に見せつけるべく、敵の首を隠し持って設楽を訪ねるが、起業し成功した設楽は急な仕事と称して姿を見せない。待つ間、彼の息子の誕生日を、妻、妹、秘書と祝うことに。おかしい、何かがひっかかる・・・


 わずか200ページ。そこにらしさを凝縮させた石持作品。この特異な状況を舞台として選ぶあたりが、いかにも石持さんといった感じがします。
 基本にあるのは「旧友が出てこない」という一点に尽きます。家族が息子の誕生日を祝っているのに、理由をつけて出てこないその場に出てこない設楽。明らかにおかしい。それはどうしてかという謎を、家族の言動などから真相へと辿っていきます。
 その間の、楡井と設楽の家族とのやり取りはまさに心理戦で、探りを入れる楡井と巧みにかわし続ける彼女たちとのやり取りはなかなか緊迫感があります。ほんのわずかな綻びからグッと真相を手繰り寄せるようなタイプで、その展開の積み重ね方もおもしろいものでした。


 中には明らかに綻びあるいは失敗とわかるような部分もあり、読み進めるうえで楽しく感じられるのではないでしょうか。むしろレッド・ヘリングのようにも見えて、楡井と同じく疑心暗鬼の渦に巻き込まれていくことでしょう。
 もちろん、楡井自身も復讐を実行したことを隠しており、逆にそちらがばれそうになってしまうことも。立場を入れ替えてごまかそうとする楡井にも注目です。
 もっとも、ワンアイデアを発展させたような印象もあり、これ以上長く引き伸ばすのはちょっと無理があるように感じられました。楡井と家族とのやり取りだけではこのあたりが限界の長さかと。考え方によっては場所や状況を大きく変えることもなく、ひたすら狐と狸の化かし合いを続けていくような話ですから。


 読み終えたあとに残るものはなんでしょうか。人によって大きく異なることでしょう。私には、前向きな人間の怖ろしさが感じられましたが、さて。

2013年4月19日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
届け物はまだ手の中に

届け物はまだ手の中に

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