似鳥鶏『パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から』
亡き父の後を継ぎ、喫茶店を経営する惣司季。共に働く弟の智は勤めていた警察を突然辞め、半年前に戻ってきたばかりだ。だが、県警本部は智の鋭敏な推理力を手放す気はないらしく、連れ戻そうと秘書室の直ちゃんと難解な事件を送り込んでくる。弟と店を守るため、季は事件解決に乗り出したが・・・
昨今流行りのお店系ミステリ。タイトルを見ても、表紙を見ても、そこを狙っているのは明らかです。ただ、先行作の多くと異なるのはいわゆる「日常の謎」ではなく「殺人事件」を扱うことでしょうか。客のいる店内で殺人事件の話なんかしていていいのか、という疑問はさておき。
何をおいても気になるのは、第1話「喪服の女王陛下のために」です。収録された4作の主要な登場人物である惣司季、惣司智、直井楓、的場莉子を紹介するのは当然のこと。犯人当てのフーダニットですが、5W1Hを様々な角度から取り込んだ仕上がりとなっているからです。この取り込み方、ずいぶん挑戦的。
捜査のスタイルとしては、第1話、2話と季と直ちゃんが調べたことから智が解く安楽椅子探偵のような形。これは、智を表面には出さないという季の考えによるもので、ゆえに推理の舞台は喫茶店「プリエール」が中心になります。
しかしながら、第3話、4話と智自身が捜査に赴くようになり、安楽椅子探偵としての魅力は損なわれてしまいます。同時にこれは喫茶店が舞台となっている部分でも、魅力を損なっているといえるでしょう。
もっとも、第4話「最後は、甘い解決を」の結末に秘められた苦味は相当なもので、これはこれで余韻を残します。好き嫌いあるでしょうが、タイトルから想像されるようなストーリーではありません。そこはぜひ読んで確認してください。
好き嫌いわかれるといえば、直ちゃんのキャラクターもそうでしょう。どうして秘書室勤務なのにあんなに事件に詳しいのか、どうして勤務時間中に「プリエール」に来れるのか、どうして本部長の車を持ち出せるのか、そしてどうしてあんなしゃべり方なのか。気になるところだらけの直ちゃんですが、もし続編があるならそのあたりも明らかになるのでしょうか。似鳥作品らしい、ユーモアのあるキャラクターであることは間違いありません。
ミステリ初心者にとっては、前半は楽しみやすいものの後半はどうかなという印象でした。シリーズものの連作短編集ですが、バラエティがあると表現できるのかもしれません。
収録作:「喪服の女王陛下のために」「スフレの時間が教えてくれる」「星空と死者と桃のタルト」「最後は、甘い解決を」
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書評
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