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古野まほろ 『命に三つの鐘が鳴る Wの悲劇'75』

review

 東京帝大を卒業した二条実房は、キャリア警察官として交番研修から埼玉中央署勤務へ。学生時代左翼組織に属した彼は、刑事だった父を学生運動で喪い、組織のリーダーとなった親友に恋人を奪われた経験がある。その二条を指名して出頭してきたのは、恋人佐々木和歌子を殺害したという親友我妻雄人だった・・・


 古野まほろと警察小説。あまりイメージとして近くは感じられなかったのですが、思いのほか切ない仕上がりになっていて、好印象です。
 今までの探偵小説から警察小説に舞台が変わったことも影響しているのか、今までの作品とは少し趣が異なります。多用されていたルビや饒舌に語られた薀蓄は一部を除いて影を潜め、もっぱらストレートな警察小説として取調室を中心に物語は進展していきます。ある意味静かに、淡々と。


 もっとも、そこは古野まほろ。自白した犯人・我妻を論理の繰り返しで二条に追いつめさせます。論理を積み重ねては、上司同僚に崩されることの繰り返し。警察小説であっても、このパターンは探偵小説と変わりありません。言い方を変えれば、警察小説の舞台で描かれた探偵小説とも言えるでしょう。
 また、この論理の積み重ねによって明らかにするのが動機だというのも珍しいのではないでしょうか。すでに犯人も手口も明白な事件において、ただ一点はぐらかされている動機に、論理的にたどり着こうとしている作品です。しかも、ここにはふたりの意地、ポリシー、友情、そして和歌子への愛情が複雑に絡み合い、スリリングかつ切ない結末に至ります。これは想定外でした。


 ごく初期の作品のイメージを期待する方には物足りないかもしれませんが、素直に満足できる作品でした。新作の『パダム・パダム Eの悲劇'80』も楽しみです。

2013年6月2日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
命に三つの鐘が鳴る Wの悲劇'75

命に三つの鐘が鳴る Wの悲劇'75

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