樋口有介『窓の外は向日葵の畑』

 学園理事長の娘で、江戸文化研究会の部長を務める高原明日奈が姿を消した。青葉樹は後輩の紅亜に押されて、部員として明日奈を探すことに。元刑事の樹の父完一もまた美人の顧問教師沙智子に煽られ、独自に捜査を始めた。やがて副部長佐々木が死体で発見され、事件は下町から広がっていく・・・


 お得意の青春ミステリ。しかも、父親世代との融合もあるといった、まるで樋口作品の美味しいところ取りのようです。もっとも、取りすぎてしまって随分詰め込んだような感覚があります。また、東京の下町を舞台にしたという点では『刺青白書』という前例があり、この地域に対するこだわりのようなものも感じます。デビュー作『ぼくと、ぼくらの夏』とかぶる部分もあり、総決算的な意味合いがあったのかもしれません。


 相変わらずのパターンではありますが、彼らの周りには魅力的な女性がいっぱい。部長の明日奈や後輩の紅亜、顧問の沙智子、そして幼馴染みの真夏などなど。いろいろ残念な部分もあるわけですが、このあたりの登場人物の配置や動きというのが樋口作品の楽しみのひとつであります。中でも、事件の本筋とはほとんど関係のない真夏の存在ははずすことができません。物語におかしみと切なさを添えてくれます。
 また、事件の謎が解けるだけではなく、しっかり意外性のあるストーリーになっています。これはこれで最後まで味わわないといけません。ひと夏の出来事は爽やかで、そしてなんとも言いがたいような感情を残します。


 それにしても、『絶世の美女殺人事件』とか「馬鹿につけるクスリ」とか、ニヤリとさせてくれますねえ。

2013年3月12日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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