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ケイト・キングズバリー『支配人バクスターの憂鬱』

 亡き夫からペニーフット・ホテルの経営を引き継いだセシリー。支配人のバクスターは、彼女の片腕として忠実に勤めてくれている。だが、バルコニーの手すりの上で踊っていたサー・リチャード・モルトンが転落死するという事件が発生。おまけに彼の忘れ形見スタンリーはいたずら好きで、従業員は手を焼くことに・・・


 ペニーフット・ホテル・シリーズ第5作。今回は、ホテルで起きた転落死事件の謎を中心に、スタンリーが引き起こすドタバタと、新入りドアマンの甘いお世辞が巻き起こす人間関係のきしみといったものが描かれています。
 転落死事件の謎といっても本格ミステリとは違うので、謎解きを期待されると肩透かしを食らうかもしれません。真相を追究するとか、容疑者を追い詰めるとかいうような楽しみはかなり薄くなっています。謎を解くことよりも、事件を描くことでこの当時の社会性とか、風俗だとか、あるいは田舎町のコミュニティだとか、そういったものを表現する道具になっているようにも見えます。特にセシリーやバクスターの言動からは、当時の社会における物の見方というものがはっきり見えてきます。


 また、読みどころは登場人物たちにもあり、たとえば女主人セシリーと支配人バクスターの、お互いわかっていそうでわかっていないような関係は、これからいつ、どんな風に変化していくのか気になります。あるいはいたずらばかりでとても手に負えないスタンリーと、ちょっと言葉づかいがきたないメイドのガーティのやり取りは、微笑ましさをちょっと超えてガーティに肩入れしたくなります。それだけ、スタンリーのワルガキぶりは目に余るものがあるということです。


 こういった登場人物同士の関係は、やはりシリ−ズ開始当初からの積み重ねがものを言うもの。既刊を読んでいない私としては、最初の『ペニーフット・ホテル受難の日』から読んでおけばよかったかなという思いがあります。もっとも、まだこの先も続いていくシリーズ、今のうちに最初から読んでいけば追いつく時間の余裕はたっぷりあります。

2012年12月3日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ

支配人バクスターの憂鬱 (創元推理文庫)
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書評

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