水生大海『夢玄館へようこそ』
古いアパートを改装し、ショッピングモールとして生まれ変わった『夢玄館』。管理人をしていた伯母が入院することになり、花純は代理を務めるものの、各店舗のオーナーたちは様々な問題を起こしてくれる。失業中だった花純にとって、オーナーたちのような夢や想いを抱くなんて考えられないものだった・・・
『少女たちの羅針盤』以来、ひさしぶりに読んだ水生さんの作品は、ちょっと雰囲気の異なる連作短編集です。とにかくライトでした。
夢玄館のショップオーナーたちは、それぞれに夢とか想いとか希望とか、そういった前向きなものを持っています。だからこそ、ある意味わがままであったり、あるいはやっかいな問題を持ち込んだりということになります。それをどこまで許容できるか、というのが楽しく読むうえでのポイントではないでしょうか。許容できる部分が少ないと、やはり楽しさ、おもしろさは大きく減ってしまうことでしょう。
もちろん、短編それぞれには謎も解決もあるのですが、それもちょっと小粒で残念。ただ、随所に登場する人間の悪意を書く力はなかなかのもので、力を感じさせます。たとえば「標本」で語られる悪意なんて本当に嫌な気分になります。
望まれるのは、花純がしっかりと前を向き、自分の意志で人生を歩むこと。オーナーたちを見る限り、必ずしも先が明るいとは言い切れません。それでも一歩踏み出した彼女の未来が見たいなあ。
収録作:「標本」「銀の魔法」「花と器」「金魚の幽霊」「火の粉」「漆黒の缶」
- 作者: 水生大海
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2011/11/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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